読者の皆さんの俳句を誌上で味わう「文春俳壇」。今回も俳人の大井恒行さんが選者。お寄せいただいた投稿の中から選んだ37句と講評、そして初夏の名句3句をご紹介します。

 

歩く鳥世界にはよろこびがある 佐藤文香

鳥といえば飛んでいる鳥を想像しますが、この句に詠まれているのは「歩く鳥」。飛べないわけではありません。地上を歩いてみたら、そこに喜びの世界があった。何かを発見する喜び。季語のない無季句ですが、鳥の囀りが聞こえてきそうな明るさがあります。

 

クレヨンの黄を麦秋のために折る 林 桂

5月にもなると麦の穂は黄色く熟れ、刈り入れの時期を迎えます。その彩りもあいまって名付けられた「麦の秋」「(ばく)(しゅう)」は初夏の季語。その景を描こうと黄色のクレヨンを折った初々しい少年がイメージされます。成熟への願いとともに喪失感もある、青春讃歌です。

 

国家よりワタクシ大事さくらんぼ 攝津幸彦

太宰治著『桜桃』の一文「子供より親が大事、と思ひたい」が、夏の季語「さくらんぼ(桜桃)」からも想起されます。カタカナ書きの「ワタクシ大事」は“個人より国家”という思想へのアンチテーゼ。ささいなワタクシにこだわり続ける自分こそ大事にしたいものです。

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source : 週刊文春 2026年5月7日・14日号