「この10年近くの間、4町側には映画製作のリスクやメリットについて説明を行ってきました。にもかかわらず、クランクイン直前になってちゃぶ台返しをされてしまった。故郷の町民にも喜んでもらえるように、良い映画を作りたかったのに……。なぜこんな対応を取られたのか、不思議でなりません」
無念の思いを吐露するのは、映画監督の田中光敏氏(67)だ。2013年に市川海老蔵(当時)主演の「利休にたずねよ」で、モントリオール世界映画祭最優秀芸術貢献賞を受賞するなど、実力派のベテラン監督として知られる。
田中氏の言う「4町」とは、北海道の東南部に位置する日高地方のえりも町、浦河町、様似町、十勝地方にある広尾町のことである。2016年春、この4町は、映画「北の流氷」(仮題)の撮影を田中氏に依頼。後に主演は内野聖陽に決定した。だが、9年の歳月を経た2025年7月、突如として中止を発表したのだ。
一体、何が起こっていたのか――。
「北の流氷」は古くから良質な昆布の産地として知られた、えりも岬が舞台だ。明治期からの開拓による森林伐採で荒廃し、1950年代には「襟裳砂漠」と揶揄された状況を憂えた地元漁師たちが、30年以上の月日をかけ、豊かな緑と海を再生させた姿を描く作品だ。

田中氏は4町のひとつ、浦河町出身である。
「2020年に急逝した三浦春馬の最後の主演映画となった『天外者(てんがらもん)』を手掛けたことでも知られます。『天外者』の主人公は明治初期の実業家・五代友厚。史実を基にした作品が高く評価されており、地方自治体とタッグを組んだ製作経験も豊富です」(映画関係者)
「なんとか映画を作ってくれよ」
2016年春、田中氏に白羽の矢を立てたのは、故郷・浦河町の池田拓町長(当時)だった。
「監督、なんとか映画を作ってくれよ。地元を盛り上げるために力を貸してくれないか」
町長室でそう依頼された田中氏。故郷の町長に請われ、「ぜひ、一緒にいい映画を作りましょう」と、一肌脱ぐことを決断したのだ。
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source : 週刊文春 電子版オリジナル






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