いま、子供のSNS利用を規制する動きが世界中で起こっている。スマホの普及以降、若者の自殺率が増加。企業の責任を問う方向へ進んでいる。翻って日本の対策はどうか。そして子を守るために親が出来ることは――。

 

●米研究スマホ普及でうつ病・自殺率増加

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「私たちは、この法律が完璧でないと知っています。しかし、子供たちのために、これは試してみなければならないのです」

 昨年12月、オーストラリアで16歳未満の子供のSNS利用を禁じる法律が施行された際、アニカ・ウェルズ通信大臣はこう語った。同国は、年齢制限を設けた世界初の国である。

 対象となったのはX、YouTube、TikTokなど10のサービス。子供がアカウントを持っていると発覚した場合、SNS運営企業に対し、最大9900万オーストラリアドル(約110億円)の罰金が科される。施行から1カ月で470万のアカウントが削除された。

 そして2026年7月、フランス議会は15歳未満の子供のSNS利用を規制する法案を可決した。憲法評議会での判断を踏まえ、現在は新たな法案が検討されている。マクロン大統領はこう述べている。

「子供や若者の頭脳は売り物ではない」

マクロン大統領も法規制に前向きだ

 欧州ではスペインやギリシャ、デンマークなどでも、法規制が検討されている。背景には、SNS利用が子供の脳の発達に悪影響を及ぼすとの研究結果が発表されていることがある。

「アメリカの社会心理学者で、ニューヨーク大教授のジョナサン・ハイト氏の研究によれば、スマホが普及した2012年頃を境に、10代のうつ病や不安症、自殺率や自傷件数が急激に増加。特に10歳から14歳の女子で、自傷による救急受診件数が10年代に3倍に増えたという」(国際部記者)

 規制の動きは国境を超えて進む。EUでは、巨大プラットフォーム企業に対し、ネットいじめや依存症などから未成年者の保護を義務付ける法律が既にある。フォンデアライエン欧州委員長はさらに、今年秋にも子供のSNS利用を制限する制度案を公表するとしている。これは一律の禁止ではなく、

〈13歳未満の子供は保護者の監視下でのみ使用できる〉〈3歳未満はSNSとの接触は全面禁止〉

 など、年齢に応じて段階的に制限する仕組みだ。

規制へと動く欧州委員長

 いま世界中で、子供のSNS利用を禁じる法律が相次いで成立している。そこで、規制を導入している各国の実情を徹底調査。今後、日本はどのような方策を採るべきかを探る――。

 世界の潮流に共通しているのは、「子供の安全を守る責任は、SNSの運営企業側にある」という考え方だ。欧州の子供の権利を守る団体、ユーロチャイルドの担当者はこう解説する。

「年齢制限だけでは接触機会は減らせても、サービス改善には繋がりません。EUの専門家会議の報告書では特に、無限スクロールや自動再生、“おすすめ”アルゴリズムなどが中毒性のある機能として挙げられています。これらに対する安全対策は、子供や保護者ではなく、プラットフォーム事業者自身が講じるべきだとしている点が重要です」

 SNSの対象年齢や安全性を格付け・レビューする米NPO「コモンセンスメディア」のジム・ステイヤーCEOもこう指摘する。

「子供にSNS利用を止めさせるのではなく、企業が子供に接触するのを止めさせるのです。企業が子供にこれ以上デジタル版のタバコを手渡せないようにすることが必要なのです」

 
SNSは世界中に氾濫している

 こうした考えに強く共感するのが、アメリカのマサチューセッツ州在住のデブ・シュミルさんだ。20年に、娘のベッカさんがFacebookを介して購入したフェンタニル(合成麻薬)入りのコカインを摂取し、18歳で命を落とした。以降、遺族としてSNS規制の必要性を訴えている。

メタ社は180億ドルで和解

「ベッカは13歳でスマホを手にしたことで変わってしまった。15歳の時、グループチャットで知り合った年上の男子にレイプされ、リベンジポルノの被害にも遭った。現実から逃れるためSNSで気軽に買える違法薬物に手を出すようになったのです。SNSがなければ、彼女が直面する危険がこれほど増幅することはなかったはずです」

 アメリカでも規制の動きは進んでいる。だが、年齢制限や、SNSの運営企業に法的責任を課す法改正は、企業から強い抵抗がある。

 24年には、法改正に向けて行われた米上院の公聴会にメタ社CEOのマーク・ザッカーバーグ氏が出席。議員に促され、前出のシュミルさんら複数の遺族に謝罪した。しかし……。

「その場にいた親たちの誰も、彼の言葉を本気にしませんでした。もし本当に気にかけているなら、必要な対策を講じているはずです。強制されたから謝罪しただけで、何とも思っていないでしょう」(同前)

シュミルさん(左)らにザッカーバーグ氏が謝罪

 全米で、プラットフォーム企業に対する訴訟も相次いでいる。今年8月、子供のSNS依存を助長したとして、全米29州から訴えられていたメタ社が、最大180億ドル(約2兆8600億円)の和解金を支払うことで合意した。対象地域では、18歳未満のInstagramとFacebookの利用時間は、1日2時間までに制限されるという。

メタ社は和解を選んだ

 他州に先駆けて勝訴した、ニューメキシコ州での裁判には、若者主導のNPO「Design It For Us」の報告書が提出された。共同議長のセバスチャン・マハル氏が語る。

「メタが若者にとって安全な製品設計を怠ったことが認められました。ただ、この和解は出発点に過ぎません。『企業の責任は問えるし、問わなければならない』と人々が気づき始めています」

 では、日本はSNSの課題をどう捉えているのか。

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source : 週刊文春 2026年9月10日号