GoToトラベル、ワクチン、東京五輪……コロナ対策を巡り迷走と混乱を続けた菅政権。昭和史にも共通する、日本の宿痾とは何か。

(ほさかまさやす 1939年生まれ。ノンフィクション作家。4000人の昭和史関係者に取材して肉声を記録。最新刊に『石橋湛山の65日』。)
(ごとうけんじ 1949年生まれ。ジャーナリスト。共同通信社で政治部長などを歴任。著書に『ドキュメント平成政治史』全3巻など。)
(つじたまさのり 1984年生まれ。評論家。政治と文化芸術の関係をテーマに著述などを行う。最新刊に『超空気支配社会』。)

保阪 新型コロナウイルスの感染者数が増え続けるなかで東京五輪が強行されましたが、それはどこか、敗戦が濃厚だったのに戦争を止めない昭和前期の日本を見ているかのようです。

 先日、40代の記者から「何かあると、なぜ昭和史の出来事や人物にたとえるのか」と聞かれて、私はこんなふうにお話ししました。

 人類が体験したほとんどのことは、実質62年と2週間に及ぶ「昭和」に眠っており、無数の教訓が詰まっています。とりわけ戦争は一つの判断で人間の生死が分かれるため、どこで間違えたのか、何が問題だったのかが明確に示される。過去の類似例と比較することで、いま起きている問題の本質を掴むことができる。歴史を知ることの意義はそこにあると考えます。

辻田 私は「根拠なき楽観主義」に戦中と現在の相似を感じています。菅義偉首相は開会前のスポーツ紙の取材で「結果的にやってよかったと言われるような大会にしたい」と語っています。コロナ禍での開催に加え、大会組織委員会会長だった森喜朗さんの性差別発言や演出陣の過去の発言が相次いで問題になり、開会前の五輪への国民の関心は最悪でした。それでも菅さんは、日本勢の金メダル獲得が続けば神風が吹く、と言わんばかりです。

菅首相

後藤 昨秋の所信表明演説で、菅さんは「爆発的な感染は絶対に防ぎ、国民の命と健康を守り抜く」と意気込んでいました。それなのにGoToトラベルについて強気一辺倒で、なかなか「一時停止」の決断を下さなかった。ひょっとしてうまくいくんじゃないかという姿勢を最後まで崩さず、早めに切り替えて次の手を打つことができませんでした。強気な姿勢を貫き、それが裏目に出て、結果、後手に回る。菅さんはコロナ対策でそういうことを繰り返しています。

保阪 日本人はいつの時代でも、困難に直面すると全体の状況を把握せず、その場その場をやり過ごそうとします。ガダルカナル島の戦いで、日本軍の参謀は米兵を前に甘い見込みで繰り返し兵を投入し大敗した。なぜ失敗したのか。「日本は勝つ」という願望が先にあって、資源不足や兵站が不十分であるという現実から目を背け、問題の本質を見失ったからでしょう。主観的願望を客観的事実にすり替えてはならない、それがこの失敗の大きな教訓です。

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source : 週刊文春 2021年8月12日・19日号