8月12・19日夏の特大号で「小誌記者『選手村バイト』でわかった安全・安心のウソ」と題する記事を発表した「週刊文春」の甚野博則記者(48)。だがこの記事の内容は、膨大な取材データのほんの一部に過ぎない。電子版オリジナル記事として、甚野記者が誌面には書けなかった“選手村の真実”を詳細にレポートする。(全4回)

◆甚野博則(じんの・ひろのり) 1973年生まれ。大学卒業後、大手電機メーカーなどを経て2006年から「週刊文春」記者。2017年に「『甘利明大臣事務所に賄賂1200万円を渡した』実名告発」で、19年に「証拠文書入手! 片山さつき大臣 国税口利きで100万円」で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」スクープ賞を2度受賞。

 ついに選手村で初のクラスターが発生した――。

 8月4日、選手村に滞在しているギリシャのアーティスティックスイミングの選手4人と関係者1人がコロナに感染していたことが明らかになり、東京五輪・パラリンピック組織委員会(組織委)のスポークスパーソンは「クラスター(感染者集団)と言わざるを得ない」と説明。五輪関係者が一般人と接触しないよう大きな泡で包み込む「バブル方式」の安全性を声高に主張してきたIOCや組織委員会、そして日本政府の説明は、やはりウソだった。そして8月24日からは同じ選手村を拠点にパラリンピックが開幕する——。

 8月8日に閉幕した東京五輪。開会前から「安全・安心な五輪」を繰り返してきた菅義偉首相は、閉会式翌日の記者会見で「開催国としての責任を果たして無事に終えることができた」と胸を張ったが、果たしてそうだろうか。

 当初は約7000億円の予算で「世界一カネのかからない五輪」を掲げていたはずの東京五輪だったが、最終的には約3兆円にまで膨れ上がった。我々の税金は適切に使われたのか。「バブル方式」は本当に安全なのか。本当にそんなことができるのか——。そう思った私は五輪運営の実情を知るべく、選手村でアルバイトをすることに決めた。「安全・安心」を謳う五輪の実態をこの目で確かめたいと思ったからだ。以下は、5月から8月にかけて、私が目撃した五輪選手村アルバイトの一部始終である。

“五輪バイト”を隠している

 私は選手村に潜入して取材するため、5月20日頃から五輪関係のアルバイトの求人を探し始めた。五輪に関係するアルバイトの特徴は2つある。1つは高給であること、そしてもう1つは、“五輪バイト”ということを隠している点だ。

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source : 週刊文春