お米を原料に日本酒の製法をベースとしながら、従来の日本酒とは一線を画す「クラフトサケ」。
フルーツやハーブなどさまざまな素材を取り入れ、造り手の想像力の赴くまま、味わいという装いを自由に変えるクラフトサケは“世界で一番新しいお酒”と言っても過言ではない。
そんな新ジャンルが今、酒類業界だけでなく、生み出す地域にも活気を与えている。
美食と活力を味わいに、いまや年間5万人以上が訪れるという秋田県・男鹿市を訪れた。

駅前広場は若いカップルや子どもで賑わい、ナマハゲの像の前では観光客がかわるがわる写真を撮っている。ラーメン屋の前には行列が絶えず、3月に竣工した総部屋数161室のホテルは満室で、駐車スペースを探す車が右往左往していた。
13年連続で人口減少率全国トップを記録した秋田県。その中でも、65歳以上の人口が半数を超える、いわゆる「限界集落」――。これは、そんな男鹿市のシルバーウィークの光景だ。人口2万2000人の小さな街が、今、確かに変化している。

その立役者が、クラフトサケ醸造所の「稲とアガベ」だ。2021年、JR男鹿駅の旧駅舎を改修して醸造所を立ち上げた同社は、レストランや食品加工所、ホテルなど、4年で10拠点をオープン。寒風山や鵜ノ崎海岸といった景勝地をドライブするだけだった地に、食事をし、酒を飲み、宿泊できる場所をつくった。2025年に関連施設を訪れた観光客は、のべ5万人にものぼる。

「お酒は、地域を伝えるメディアなんです。ブルゴーニュワインを飲んだらブルゴーニュへ、アイラウイスキーを飲んだらアイラ島へ行ってみたくなる。お酒は、僕たちが意図しないところや出会えない人まで届いて、男鹿へ連れてきてくれる」
代表の岡住修兵はそう語る。

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source : 週刊文春 2026年10月29日号
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