今年3月、村上龍さんは、『カンブリア宮殿』(テレ東系)を引退した。長年務めた番組の顔。最後の収録でも、普段と変わらぬポーカーフェイスを貫き、現場では「龍さんらしいな」との声も上がった。
だが、収録が終わり、感想を問われると、ポツリと本音を漏らした。
「それは、こう……寂しいですよ」
約7カ月後の10月17日、村上さんは逝去した。享年74だった。
1952年、米軍基地の街・長崎県佐世保市に生まれた。青春時代は、全共闘やベトナム戦争の真っ只中。高校卒業後に上京し、最初に住んだのは、米軍の横田基地にほど近い福生市だ。米軍兵、いわゆるGIたちに囲まれる生活を送った。
武蔵野美術大学在学時の76年、福生での日々を元に書かれた作品が、ドラッグやセックスで退廃した若者を描いた『限りなく透明に近いブルー』(講談社)である。累計380万部を誇る同作について、後に、共に芥川賞選考委員を務めた島田雅彦氏が語る。
「私は当時、作家志望の中学3年生。従来の日本文学の規範を破る、読者の情動に直接訴えるドライブ感と暴力性を伴った筆致に衝撃を受け、『これからの文学はこれでいいんだ』と思った。それが、作家・村上龍との出会いでした」
芥川賞受賞後、エレクトーン奏者の女性と結婚。80年に、孤児たちの衝動的な生き様を描いた『コインロッカー・ベイビーズ』(講談社)を上梓すると、87年には、世界経済の恐慌や政治的混乱をモチーフにした『愛と幻想のファシズム』(講談社)を発表。社会問題に鋭く切り込んだ。
「『愛と幻想のファシズム』では、人々の知性が劣化し、支配する者の快楽と支配されたがる人々の心情を描きました。これは、右派ポピュリズムやテック企業やAIによる統治に翻弄される現代の危機を先駆的に予見していたといえます」(同前)

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source : 週刊文春 2026年11月5日号
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