「週刊文春」には、「ややこしい取材相手ならこの人」と一目置かれている男がいます。甚野博則記者、48歳。小誌で15年働くベテランは、アルバイトとして東京五輪の選手村で働き、そのコロナ対策がいかにズサンなものであったかを、夏の合併号で実名レポートしました。
私が甚野記者の凄さを目の当たりにしたのは、2016年、甘利明・経済再生担当大臣(当時)の金銭授受疑惑記事の時でした。この記事は、甚野記者が自ら取ってきた話でした。
安倍政権の中核として、TPP交渉を担当していた甘利氏に、立ち退きを巡る補償交渉を有利にするため、建設会社の総務担当者が現金を渡していた。金銭は、大臣室で「とらや」の羊羹と一緒に渡されるという、まるで時代劇のような話でした。
記事が出た1週間後、甘利氏は辞任を表明。この疑惑は、発売前日の夜に、NHKが報じるなど、大反響を呼び、2号連続で完売しました。
ただ、記事になるまでは、長い時間を要しました。告発者と連絡がつかなくなったり、逆に「すぐに記事を出してくれ」と求められたり…。担当デスクだった私は、甚野記者に記事化にあたって「本人による告発と客観証拠」を条件にしていました。長年、政治とカネを取材していますが、金銭の授受は、当人同士で現金で行われるため、直接的な物証がないケースがほとんどです。それを読者、他のメディア、裁判所に信じてもらうには、渡した当人の証言、それを裏付ける客観証拠が必要です。当時の安倍政権は支持率も高く、絶頂期にありました。少しでも隙を見せれば、近いメディアや支持者の“逆襲”が始まったはずです。
ただ、告発者は、政治家に現金を渡して、補償交渉を有利にしようと計画していたぐらいですから、一筋縄でいく人物ではありません。また、告発者は、自らも逮捕される可能性がありました。東京地検特捜部がまともに捜査していれば、じゅうぶん立件可能な事件でした。当然、精神的に不安定になります。この間、甚野記者は辛抱強く、告発者と向き合い、信頼を得ると同時に、緻密に取材を進めて、「本人告発」と「客観証拠」の2つのハードルをクリアしたのです。
その代償もありました。取材が終わった後、甚野記者は目の病気を発症し、しばらく療養しました。今は完治しましたが、原因は強度のストレスによるものと考えられています。
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source : 週刊文春