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テスラ社員がイーロン・マスクに直訴したコロナ隠し営業

「週刊文春」編集部
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「お客様の命に関わる問題なのに、会社は事実を公表しておらず、隠蔽をしているのです。社の『ミッション』に、一番重視するべきは『お客様とその家族の安全』とあるのに……」

 こう憤るのはテスラ日本法人の社員だ。

ラゾーナ川崎プラザ店(同社HPより)

 同社はアメリカ・カリフォルニア州に本社を置く電気自動車(EV)メーカー。

「今年上半期のEV販売台数は前年同期比で約2.2倍と絶好調。20年4~6月期決算は1億400万ドルの黒字に。大谷翔平選手が乗っていることでも知られています」(経済部記者)

 CEOのイーロン・マスク氏は、米フォーブスが発表する今年の世界長者番付で2位に躍進。保有資産は1510億ドル(約16兆5000億円)にのぼる。

 日本法人は10年に設立。以後、店舗数を拡大し、社員数は1800人を数える。

「昨年、株式時価総額でトヨタを抜き自動車業界で世界一に。今年3月の国内販売台数は、前年比で13倍と急伸しました」(同前)

 そのテスラで、いま“緊急事態”が起こっている。前出の社員が語る。

「ラゾーナ川崎プラザ店の店長に当たる、ストアマネージャーA氏が7月30日、新型コロナウイルスに感染したことが判明したのです」

 A氏は同日、日本法人のトップのカントリーマネージャーのリー・ヨンエイ氏に報告した。しかし――。

「リー氏は翌31日、『ここに濃厚接触者はいない。納車を最優先で』と、濃厚接触者の調査をすることなく、営業続行を指示したのです。店舗はリー氏たちが市販のアルコール剤で消毒しただけでした」(同前)

 小誌が入手した勤務表によると、A氏の最終出勤日は7月27日。この日、A氏は店舗スタッフと1対1の面談を行なっている。

「面談は狭い密室で行なわれました。以降、続々と感染者が発生。8月4日までにA氏を含め社員4名、派遣社員1名の計5人の感染がわかっています」(スタッフ)

 もちろん感染したこと自体は責められない。問題は同社のその後の対応だ。

「ラゾーナ川崎プラザ店は、休日は一日200名ほどの客が訪れます。感染が確認された3人の社員は、A氏の感染後も接客業務をしていた。お客様に感染させる可能性も十分ありましたが、社のHP等で公表もしていません」(前出・社員)

 不信感を持ったスタッフがリー氏に説明を求めると、「お客様には感染者が出たことを話さないように」と口止めもされたという。

 ようやくリー氏が納車以外の来店を原則禁止にし、完全予約制としたのは5日。感染判明から6日後のことだった。6日には人事部担当者から、全従業員宛にメールが送られた。そこにはこう記されている。

〈川崎ラゾーナにおいて正社員2名、派遣社員1名に新型コロナウイルスへの陽性が確認されました〉

社外には「Confidential」と記されたメール

 別の社員が言う。

「5人の感染者が出たとなると小規模クラスターとなり、深刻さの度合いが増す。事実は社員にも伏せているのです。店舗の入居するラゾーナ川崎プラザにも感染者が出たことは報告しましたが、A氏と接触のあった従業員がその後も出勤していたことは隠していた」

 日本法人だけではなく、マスク氏本人も巻き込む事態にも発展した。

「マスク氏は現場の意見を尊重するタイプです。末端の社員にも『何かあったら俺に言え』と伝えている。昨年5月、日本法人の代表が不祥事を起こした際、社員がマスク氏にメールで進言すると、6時間後にその代表は降格させられた。告発した社員には、マスク氏から『これでいいか?』と返信があった」(前出・社員)

 何かあったら俺に――。

 その言葉を思い出したある社員は、マスク氏に直訴するメールを送った。

「“コロナ隠し営業”の実態を伝え、これがテスラのやり方なのかと問題視する内容だったそう。さらにA氏を処分するようにも求めたようです」(同前)

 マスク氏は日ごろから「受け取ったメールは、5分以内に返せ」と伝えているほど返信は早い。だが今回は未だ返事はないという。

 ラゾーナ川崎プラザの施設運営者である三井不動産商業マネジメントの回答。

「テスラから感染者が出た報告は受けており、保健所の指導のもと、営業を再開している。感染者の公表は各社に任せている」

 テスラからは期限までに回答がなかった。

 前出の社員が嘆息する。

「日本法人は上陸して日が浅く、若くして役職者になる人も多い。今回のような問題に対応できないのです」

 今こそマスク氏の重視する、現場の意見に耳を傾けた方がいいのでは。

source : 週刊文春 2021年9月2日号

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