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町田小6いじめ自殺 加害児童は“殺し方”ノートを作っていた 校長「仰天言い訳音声」も入手

「週刊文春」編集部
ニュース 社会

 痛ましい事件から約10カ月、市が再調査を開始した。なぜ彼女は12歳で死を選ばざるを得なかったのか。両親の証言と一本の音声テープから、碌に調査をしてこなかった学校と、校長の不誠実な態度が浮かび上がってきた。

いじめが起こった小学校

 

〈これって遺書っていうんだよね? これを見るってことは、私は死んじゃってるんだよね?〉

 机に広げられた、A4サイズのレポート用紙。小学6年生の彼女は、部屋で数枚の遺書を書き終えると、大切に机の引き出しにしまい、誰にも見られないように鍵をかけた。

〈孤独が一番いやだ〉

 当時12歳の上野香織さん(仮名)は、東京都町田市の小学校に通う、スポーツが好きな明るい子だった。

 香織さんが自宅で首を吊って亡くなったのは、昨年11月30日未明。深夜まで部屋の明かりがついていることを不審に思った兄が、遺体を発見した。

 空手やチアリーディングを習い、塾に通って勉強にも打ち込んでいた香織さん。ごく普通の女の子はなぜ、死を選んだのか――。

「遺書は、娘が亡くなり、病院から自宅に帰ってきた朝方に私が見つけました。娘は『部屋の机の鍵を無くしちゃった』と言っていたんです。『鍵のかかった引き出しにはお金を入れているけど、鍵は自分で探すから大丈夫』と。ただ部屋を探してみると、小さな瓶の中に入った鍵はすぐに見つかりました。机の中には確かにお財布があり、そして奥から遺書が出てきました」

 そう言って香織さんの母は涙をぬぐった。

 遺書にはいじめに遭っていたこと、加害児童AとBの実名が記されていた。

「『この2人のせい』と名指しし、『私はお前らの遊び道具じゃないんだよ』とも記されていました。娘がいじめに遭っていたことを全く知りませんでしたので、衝撃で……」(香織さんの父)

 そこには“縁切りどっきり”といういじめを受けていた、と書かれている。まずAとBが、香織さんと絶交する。その後、それは嘘だったと明かすのが“どっきり”なのだという。

“どっきり”には、いくつか種類がある。例えば香織さんに物を預け、彼女がお手洗いに行った隙に預けた物を抜き取って、「弁償しろ」と詰め寄る。死にたいほど辛いことがあるからと、死ぬ方法を香織さんに相談するのが“自殺どっきり”。嘘だと種明かしをするまで、長いと1週間以上も彼女の困った顔を遠目に見て嘲笑う陰湿ないじめだった。

「同級生の話では、給食のとき、『手首を切ったらどのくらい血が出てくるのかな』と、娘にそんな話もしていたと聞いています」(母)

 香織さんの死を学校に伝えたのは、11月30日の午前中。詳しい事情を説明するため、香織さんの両親は、学校へと向かった。

 校長室には香織さんの担任と、他のクラスの担任が2人、そして女性の校長(当時)と副校長が同席した。香織さんの両親はコピーした遺書を校長らに差し出した。重苦しい空気に包まれた室内で、香織さんの父は、担任にこんな質問を投げかけている。

「先生、娘がいじめられたことは知ってましたよね」

 すると担任は、「はい」と即答。ところが、慌てて校長が割って入り、担任にこう話した。

「いやいや、そういうことではないですよね」

 この対応に両親は違和感を覚えた。

いじめに向き合わない校長

SOSのサインを見逃した

「校長先生が、担任の発言を打ち消したんです。すると、担任の先生は下を向いたまま何もしゃべらなくなってしまいました」(父)

 香織さんの学校は、児童1人に1台のタブレット端末を配備する先進的な教育で知られる。「ICTを主体的に使いこなすだけでなく、他者と協働し、人間ならではの感性や創造力を発揮」という目的の下、ICT教育をけん引してきたのが校長だった。だが皮肉にも、このICT教育が“いじめ”に使われていたのだ。

「端末のチャット上で、香織さんに対し『きもい』『死ね』などと書き込まれていた。『123456789』という同じパスワードを使わせていたため、他人に成りすまして悪口を書き込む生徒もいるなど、学校の管理体制の甘さも指摘されています」(社会部記者)

 チャット上で陰口が書かれていたことは、多くの同級生が知っていた。

「娘は、AとBだけでなく、CとDからもいじめられていたと聞きました」(母)

 両親は誰が悪口を書き、どんな書き込みがされていたのか、学校が真剣に調査してくれるものだと信じていた。ところが――。

 両親の期待は大きく裏切られる。それどころか、学校側の遺族に対する不誠実な対応に、日を追うごとに不信感を募らせていく。

 実は香織さんは、亡くなる約2カ月半前、学校でSOSのサインを出している。

 小学校が児童に対して定期的に行っている「心のアンケート」。9月の調査で、香織さんは友人関係に悩んでいることを記していた。

 だが学校は、校長室を訪れた両親にこの事実を伏せていた。翌月、アンケートの内容を遠目に見せられた両親は、「それをください」と伝えるも、市役所で開示請求をするように言われたのだ。年明け、ようやくアンケートを手にした両親は、内容に驚きを隠せなかった。

〈エスカレートするから話し合うのは嫌〉

 用紙の隅に、手書きのメモが記されていた。担任は香織さんに、A、Bと話し合うことを提案したが、香織さんは担任の提案を拒否したのだろう。ところが用紙の下部には、こんな走り書きもあったのだ。

〈当事者で話し合って解決したようではあるが引き続き指導していく〉

「先生は嫌がっているのに当事者同士で話し合わせたんです。そんなことをしたら、余計にいじめはエスカレートするだけでしょう。それも開示請求をして、初めて知りました。娘が友人関係で悩んでいると書いているなら、親に伝えてもらえれば、私たちも何らかのアクションができたはず」

 香織さんの父は、そう悔しさを滲ませた。

 学校の調査は、遅々として進まなかった。例えば12月25日、校長は両親に対して、「AとBへの聞き取り調査を行ったが、チャットへの書き込みは消えていた」などと説明している。同日の両親と校長の電話の音声データには、両親の問いに対して、答えをはぐらかす様子が記録されていた。

母親「香織のチャットは全て閲覧できたのに、なんで(AとB)2人のチャットは消えちゃってるんですか」

校長「私たちもそこがすごく疑問に思ったんですよ」

 加害児童が消したのではないかと追及する両親に対し、「すごく不可解」「おかしいですね」とひたすら噛み合わない返答をし続ける校長。さらに悪口が消えた理由については、こんな弁明をしている。

校長「何かですね、あの、その友達の中に入り込むみたいな動きがちょっとあったんですよ」

父親「入り込む?」

校長「つまりですねハッキングっていうんですか。つまり何かお助け隊じゃないんですけども、誰かの中に入り込むような」

 証拠が消えてしまった理由を、ハッキングのせいにするという“仰天言い訳”。ICT教育のけん引役とは思えぬほど、音声テープに残されていた校長の説明は終始、要領を得なかった。

 不誠実な対応はこれだけにとどまらない。

「昨年末から校長先生には、香織が亡くなったことをみんなに早く伝えてほしいと言ってきました」(母)

 ところが今年1月に行われた臨時保護者会で、校長は次のように説明した。

「ご家族の意向で、亡くなったことを伏せてきた。なぜ亡くなったのかも、ご遺族の意向で伝えられない」

 両親の話とは真逆の説明をしていたのだ。さらに両親に対し、保護者会への参加を拒否。その理由について、「後追い自殺が怖い」「混乱を招くから絶対に来ないで」と説明したという。

 校長は3月11日の保護者会まで、いじめと自殺に因果関係はないとの説明を繰り返し、いじめは「昨年9月に解決済みだ」という認識まで示していた。

 だがここに、いじめが全く解決などしていなかった証拠が存在する。

誕生日の記念色紙

校長は教育長に“栄転”

〈香織のころしかた〉

 タイトルにそう記されたノートには、イラスト付きで香織さんの“殺し方”が記されている。

 あるページには、香織さんの似顔絵が醜く書かれている。別のページには、殺しの手順が9段階で書かれている。〈押さえつける〉〈殴りたいだけ殴る〉などから始まり、〈目をえぐる〉など徐々にエスカレート。そして9番目には〈包丁でメッタざし♡〉とある。この異様なノートには、殺す側、殺される側の2人が描かれている。絵の上にはイニシャルが記され、殺される側は香織さんの頭文字だ。

 血が噴き出す絵の下には「やってみた~い♡」とあり、学校の仲間内で閲覧されていたという。

 学校は3月半ば、いじめ問題対策委員会を設置し調査を始めたが、ノートの存在を校長が両親に知らせたことは一度もない。

 9月13日、両親は文科省に適正な調査を指導するよう要望。文科省は翌日、町田市教育委員会に事実確認を行い、記者会見で萩生田光一文科相は「極めて残念」などと述べた。22日、石阪丈一町田市長は再調査を表明した。

再調査を表明した町田市長

 一方、両親に「寄り添っていく」と言葉をかけながら、満足な調査をしてこなかった校長はこの春、ある区の教育長に“栄転”していたのだ。

 9月末、出勤前の校長を直撃すると、「夕方以降でないと取材は無理」と話した。そこで遺族への発言やノートなどについての質問を記した依頼状を送った。だが結局、取材に応じず、文書で「市の第三者委員会の調査には全面的に協力する」などと、質問の趣旨から外れた回答が届いたため、校長に電話をかけた。

――この文書、質問の回答になっていませんよね?

「私もお話ししたいです。私は本当にそこで、とにかく言えることを書きました」

――言えること?

「ですから、お答えすることができないっていうことをお書きしました」

 両親との電話の音声同様、ひたすら噛み合わない会話を続け、最後まで守秘義務を盾に何も答えなかった。

〈今の私は負ける事を考えられない! 勝つ事しか考えない! がんばるからね☆〉

 香織さんは、亡くなる2年前の学校行事「2分の1成人式」で、〈10年後の自分(20歳の自分)へ〉と題した手紙を書いていた。

〈こんにちは!10歳のあなただよ! すっごい元気でーす♡ すっごい今ドキドキしてまっす!!!!! ところで成人式はもうやった~? ママの着物でやった~? 身長は160㎝以上になった?〉

 遺族の願いはただ一つ。徹底した真実の解明である。

文科省が市に聞き取りを行った

source : 週刊文春 2021年10月7日号

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