週刊文春 電子版

【総力取材】愛知中3刺殺 SF好き14歳がキレた「生徒会と修学旅行」

《祖父告白「とにかく本好き。ハリー・ポッターを…」》《4世代同居 公務員一家 父は団体職員、母はパート》《10日前 修学旅行後に包丁をネットで…周到な計画》《同級生が明かす少年の趣味と「応援演説の現場」》《市そろばん大会優勝、小6卒業文集に「将来は海外で」》

「週刊文春」編集部

PICKUP!

ニュース 社会

 11月24日朝、一学年50名ほどの小さな中学校が悲鳴に包まれた。SFや読書が大好きだった少年はなぜ、保育園からの幼馴染を刃物で突き刺したのか。同級生や親族、捜査関係者への総力取材で見えてきたのは――。

 11月14日午前。2台の観光バスが重厚なエンジン音を響かせ、愛知県弥富市立十四山中学校前を出発した。新型コロナの影響による二度の延期を経て、ようやく実現した3年生の修学旅行。2クラス47人の生徒と引率教員を乗せた2台のバスは、2泊3日の日程で、北陸の金沢・福井方面を目指した。

 初日は琵琶湖に臨む彦根城を見学。昼食後、金沢に移動し、金箔貼りを体験した。充実した1日目の行程を終え、一行は石川県内のホテルで1泊目を迎える。

 同校3年生・A(14)の部屋を、クラス担任と学年主任の教員2人が抜き打ちで訪問したのは、その初日夜のことだった。

「携帯電話を持って来ているよね」

 担任らはこの日午前、他の生徒から、Aが旅行に持ち込みを禁じていたスマホを持参していると聞き、確認に訪れたのだ。

「持って来ていません」

 担任らが何度尋ねても、Aは首肯しようとしない。

「その言葉を信じたいから鞄の中を見せてくれる?」

 Aが観念したように従うと、直前まで触っていたのだろうか、鞄の内側に光るスマホ画面が見えた。

「これは預かります。残念だけど、話はこれでおしまい。修学旅行を楽しんで」

 学校側はこの一件が他の生徒に伝わらないよう配慮し、もともと口数の少ないAも、そのことを周囲には洩らさなかった。

 2日目の15日、一行は福井の永平寺や県立恐竜博物館を回り、16日は班行動で金沢の名所を散策。午後、帰路に就く。こうして修学旅行は、滞りなく全行程を終了したはずだった。

「事件の約10日前に殺害を考えました」

 11月24日、同級生の伊藤柚輝君(14)を校内で刺殺し、殺人容疑で逮捕されたA。これは、その供述の一部である。10日前といえば、ちょうど修学旅行の日程と重なる時期だ。

被害生徒の伊藤君

「Aは旅行中、スマホ持参を注意された件で『疎外感を覚えた』といい、『嫌なことが続き、今の生活がどうでもよくなった』とも供述。修学旅行の一件が犯行に至る分岐点になったと思われる」(捜査関係者)

 以後のAには、周到な計画性が窺えた。何事もなかったかのように通学しつつ、修学旅行から戻った4日後の11月20日、Aは通販サイトのAmazonで、全長35センチ、刃渡り20センチの柳刃包丁を購入する。

 手元に届いたのは、22日。祝日の「勤労感謝の日」を挟み、24日朝の登校後、Aは隣クラスの教室から、伊藤君を無人の廊下に呼び出した。そして直後に響き渡る悲鳴――。

 十四山中では、違うクラスの教室に入ってはいけない決まりがある。午前8時10分から始まる「読書タイム」に備え、登校した生徒が皆、教室に入っている間隙を突いた犯行だった。

「その朝、Aは通学用のリュックサックに凶器を隠し持って登校している。被害少年に突き刺した細く鋭い柳刃包丁は、彼の肝臓を貫通。胸部大静脈と膵臓を損傷し、切っ先は背中に達する寸前だった」(同前)

 伊藤君は自力で教室内に逃げ込むも、出血はおびただしく、間もなく心肺停止の状態に。搬送先の病院で死亡が確認された。

 修学旅行を機に萌芽した殺意。Aはなぜ、伊藤君にその矛先を向けたのか。

ルーカスフィルムで働きたい

 愛知県西部に位置し、金魚の名産地として知られる弥富市。2006年、弥富町が隣接する十四山村を編入して誕生した。惨劇の舞台となったのは、自然豊かな旧・十四山村地区に存在する唯一の中学校だ。

「一学年は50人ほど。全校生徒も140人弱ですから、全校生徒が顔見知りのようなものです。校区に小学校は2つあるけど、保育園は1カ所。物心がついてからずっと一緒の子も多いんです。実際、Aと伊藤君も保育園と小学校を合わせて、10年以上を同じ学び舎で過ごしてきた“幼馴染”でした」(地元住民)

 Aは曽祖母、祖父母、両親、兄と4世代7人が同居する家庭に育った。一家が暮らしているのは、900平米を超える敷地に建つ昔ながらの日本家屋。その広大な土地と建物は現在も、Aの祖父名義になっている。

「お祖父ちゃんとお祖母ちゃんは元市役所職員。役所で開発部長も務めたお祖父ちゃんは、紳士的ないい人です」(集落の住民)

 父親は農地に関わる団体職員。準公務員で年収は700万円程度と見られる。団体内で表彰を受けたこともあった。

「集落では、成り手のいない自治会長や消防団員を引き受けてくれました。パートのお母さんは元銀行員だったと聞いています。お兄ちゃんはもう大学生になるのかな」(同前)

 いわば、お堅い“公務員一家”。最年少であるAは大家族に囲まれ、大切に育てられた。小学校時代は母親の送り迎えでそろばん塾に通い、小6の時には、隣接する市の商工会議所が主催したそろばん競技大会で優勝した経験もある。

「お祖父ちゃんの畑作業を手伝ういい子でした。お祖父ちゃんが何十キロもある藁の束を運んでいた時に声をかけたら、『大丈夫、今日はAがいるから手伝ってもらうんだ』と嬉しそうに話していた」(同前)

 その祖父は、小誌の取材にAの素顔をこう明かす。

「大人しくて、心優しい子だったんです……。とにかく本が好きで、『ハリー・ポッター』をよく読んでいたようでした」

Aは卒業文集に将来設計を綴っていた

 SF作品好きだったAが小学校の卒業文集に綴った将来の夢は、「スター・ウォーズ」シリーズの製作で知られる米ルーカスフィルム社で働くこと。文集では〈中学・高校で英語をてってい的に勉強し、専門学校で映像技術について勉強し、アメリカに行きたいです〉と、具体的な将来設計も披瀝してみせた。

同級生が証言する「本当の仲」

 一方、伊藤君は両親と兄、弟の仲睦まじい5人家族だった。

「礼儀正しい子で、朝はよく『行ってきます!』と挨拶をしてくれました。自宅前で兄弟とサッカーボールを蹴ったり、キャッチボールしたり。小学校の頃はお母さんがサッカークラブへの送迎をし、土日はお父さんも一緒に外でボールを蹴っていました」(近隣住民)

小学校では同じ図書委員会(卒アルより)

 そんなAと伊藤君は、小学校時代は同じ図書委員会で活動を共にし、同じサッカークラブに所属していた。小6時代の学年通信には、2人が並んでピースサインする姿も紹介されている。卒業式後の記念撮影でも、隣り合って写っていたほどだ。

仲良くピースサイン(小6学年通信より)

 小学校の恩師は、落涙を構わずこう述懐する。

「A君は、落ち着きがあっておっとりした子です。休み時間にボールを使って遊ぶ時も、『僕はあとでいいよ』と、他の子に譲るようなところがあった。対して伊藤君は活発で積極性があり、『俺はこれがしたいんだ』と、目標をしっかり立てられる子でした。2人の間にトラブルがあった記憶はないのですが……」

 2人の関係性に変化が見られたのは、十四山中学に進学してからだ。

 背がぐんぐん伸び、やがて兄を越え、家族で一番の長身となったA。175センチ以上はあるという長身を生かし、バレーボール部に所属していた。

 他方、同級生らによれば、印象に残るのはゲーム好きの一面だ。中でも、オンラインのバトルロイヤルゲーム「Apex Legends」に熱中。異なる能力を持つキャラクターを操り、銃やナイフなど様々な武器を利用して、敵と戦闘を重ねる人気ゲームだ。

 一緒に遊んだことのある知人が語る。

「他の友達が興奮して大きな声を上げていても、Aは物静かに遊んでいるタイプだった。でも、いつも真剣でしたね」

同じサッカークラブにも入っていた(卒アルより)

 かたや伊藤君は、中学にサッカー部がなかったこともあり、野球部に入部。反射神経がよく、内野手として活躍した。阪神タイガースの大ファンだった。

「野球をがんばっていたみたいで、『高校に入ったら甲子園に行くから見に来てよ!』と言ってくれたことも」(前出・近隣住民)

 体は大きいがSFやゲーム好きで控えめなAと、小柄ながら自己主張のハッキリしたスポーツマンタイプの伊藤君。無邪気さが目立つ小学生時代から思春期を迎え、そうした性格の違いがどう影響したのか。

 保護者同伴のもと、同級生の一人が重い口を開く。

「Aは柚輝が嫌いだったと思います。部活も違うしグループも違うんですが、柚輝は仲がいい奴とかにちょっかいをかけることがあって。Aは柚輝に突っかかられたら、その場じゃ何も言わないんだけど……」

 伊藤君が去った後、Aが小声でこう吐き捨てたことがあった。

「あいつ、マジうぜぇ」

 ただ、Aの示す嫌悪感が周囲で深刻に受け止められることはなかった。

「他の奴は同じことをされても笑っていたし、男子同士ではよくあるノリというか。Aがいつかキレるみたいな予感も、全くなかったんです」(前出・同級生)

 逮捕後、Aは犯行に至る経過を明かす中、修学旅行とは別の“ある学校イベント”を挙げた。

 昨年9月、2年生時に行われた後期生徒会の役員選挙。役員候補に名乗りを上げた伊藤君は、推薦責任者を当時同じクラスだったAに頼んだのだ。立候補者は体育館で行われる立ち会い演説会で全校生徒を前に抱負を述べ、推薦責任者も壇上で応援演説を行う。

「学校で2人が話すことはよほどの用事でもない限りなかったので、引き受けたのは意外でした。でも、Aは真面目に演説をしていたし、言葉に詰まったり、何か恥をかいたりしたわけじゃなかったです」(同前)

 しかし、この出来事はAの中で、癒えることのない屈辱として、深く静かに刻まれてしまう。

 動機の解明にあたり、最大の焦点となっているのが「いじめ」の存在だ。

 今年2月、中学が学期ごとに行う学校生活に関するアンケートで、Aは「いじめられたことがあるか」という項目に、マルを付けていた。そして自由記述欄には、伊藤君から「強制的に生徒会選挙の仕事をやらされた」ことなどが、不満として書かれていたのだ。

「いじめられていた」旨の供述も

 その後、担任と生徒が行う二者面談で、Aは「本当は断りたかったけど、断れなかった」と明かしたほか、校長らの会見によれば、こう不満を述べたという。

「自分が友達と話をしている時に割り込んでくる」

「給食の箸を渡す時に、なかなか手を離してくれないことがあった」

「友達に自分勝手な行動を注意されているのに、それでも相手にしなかった」

卒業式でも隣同士(卒アルより)

学校はいじめを教委に報告せず

 アンケートと面談結果を受け、当時の担任は伊藤君に対してこう指導した。

「自分は楽しくても、相手が嫌な思いをすることがある。軽い気持ちでしたことも、相手にとっては非常に嫌なんだ。相手の気持ちを考えて行動しよう」

 翌3月初旬、その後の状況を問われたAは「大丈夫です」と答えたという。学校側はこの件を考慮し、3年時のクラス編成では2人を別々の組にした。

市教育長と校長(右)の記者会見

「ところが、11月29日の会見で、いじめ事案があったことを市教委に報告していなかった事実が発覚。さらに過去のアンケート資料の一部を紛失していたことも明かされた。事件当日の会見では、校長が2人の間に『トラブルは確認されていない』と話しており、結果的に『いじめ』を隠蔽していたと言われても仕方ない」(社会部記者)

 ただ、少なくとも中学3年生に進級してからは、平穏な日々が続いていたという。その後に実施された学校のアンケートでは、Aがいじめや不満を書き込むこともなくなっていた。そうして迎えたのが、冒頭に触れた修学旅行だったのだ。

 別の同級生が明かす。

「柚輝とAは組が違うので、バスや班行動も別々。全体行動の時も、2人が話すところは見なかった。先生にスマホを見つかった生徒は他にもいたけど、Aも没収されていたことは知らなかった。皆、最後の修学旅行を楽しんで弥富に戻ってきたはずでした……」

 あと4カ月もすれば、中学校を卒業。新しい環境に飛び込んでいく。Aも3年前には高校、専門学校への進学と、その先の渡米を夢見ていた。だが、修学旅行でスマホを取り上げられ、「どうでもよくなった」と、幼馴染の伊藤君に凶刃ごと激情をぶつけたのだった。

「この事件は捜査一課ではなく、少年課が担当。Aは『個人的な悩みがあった』と言い、担当課員が『どんな悩み?』と聞くと、『言いたくない』と。そういう状況が続くうち、学校の面談で話したような内容も話し始めた。家庭でも不満があったようなことも匂わせている。修学旅行の件を機に何もかもが嫌になり、最も相性の悪かった伊藤君を狙って犯行に及んだ印象を受ける」(別の捜査関係者)

 同居するAの祖父が、言葉を詰まらせながら語る。

「悩みを抱えていたのかもしれませんが、無口な子でしたから。(事件)当日の朝も『行ってらっしゃい』と送り出しました。私のかけがえのない孫で……」

 伊藤君の遺体が家族の待つ自宅に帰ったのは、事件翌日の25日午後。その週末、葬儀は近親者のみでしめやかに行われた。

 過酷な現実を受け止めようとする同級生たちは、学年全体のグループLINEで「皆で伊藤君への想いを手紙に書こう」と話し合っているという――。

保護者向けの説明会

source : 週刊文春 2021年12月09日

文春リークス
閉じる