結婚してくれてありがとう。娘を授けてくれてありがとう。あなたと出会えて本当に幸せでした。いつまでも愛しています――。
妻がそっと耳元に語りかけた。ベッドに横たわる夫は、か細く息を響かせるだけで、もう何も応えてはくれない。それでも、妻の想いは、きっと彼の胸に届いていたことだろう。
2019年12月。その日、東関親方こと佐野元泰氏(以下、東関)は、入院先の病院から我が家へと搬送されていた。自宅で最期を看取るためだ。1年前にガンが判明。闘病を続けてきたが、もはやいつ呼吸が止まってもおかしくないところまできていた。
「もう苦痛は感じていないと思いますが、耳は聞こえています。話しかけてあげてください」
在宅医の言葉を信じ、夫の隣に布団を敷いた妻の真充さん(42)は、溢れる涙に構わず話しかけ続けた。
娘は大切に育てるよ。力士たちのことも心配しないでね。私にもその時が来たら、必ず迎えに来てね。
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source : 週刊文春 電子版オリジナル