「週刊文春」記者が地獄の合併号を頑張れるワケ

編集部コラム 第57回

「週刊文春」編集長
ニュース 政治

「合併号」。この言葉は、週刊誌編集部員にとっては特別な響きがあります。年末年始、ゴールデンウィーク、お盆の年3回、2週間売る。これは、そもそも雑誌物流の休みを受けてのものでした。ただ、ここ数年「週刊現代」や「週刊ポスト」は1カ月に1回合併号を出して、月3回刊となっています。「Friday」や「女性セブン」なども合併号の数を増やし始めましたが、小誌は年3回の合併号を堅持し、ページ数を大きく増やして、渾身の記事をぶち込んでいます。

「週刊文春」編集部員にとって、合併号がうれしいのは長期休みが待っていること。年3回、8連休が取れるのです。今回で言えば、4月27日から休みに入り、5月5日から再スタートします。その代わり、合併号作りは大変です。2週間売るからには、やはりスペシャルな内容が求められます。日頃、連載を担当するセクション班も、オリジナルの特集を作ります。今号は「文春歌舞伎!」と「いつも心にナンシー関」。歌舞伎特集は、グラビア班の作ったモノクロ企画と原色美男図鑑「市川染五郎」をあわせれば47ページ、ナンシー関特集は17ページの力作です。

 一方、特集班は、知床の遊覧船事故に9人を投入しました。合併号は特大ワイド特集も作るため、いつも人手が足りません。それでも、遊覧船の事故が起き、ニュースがどんどん大きくなってくると、動かしていた企画をストップし、北海道に人を送り込みました。さらに、ワイド特集を書き終えた記者も最後に参戦します。こうして、最後は9人の大チームになりました。毎回、合併号は、直前の2週間は休みなしで、最後まで息継ぎなしで泳ぎ切らなければならない「地獄の号」なのです。

 そのキツさを何とか頑張れるのは、何より「休み」が待っているから。そして、合併号といえば、「班会」があります。合併号が校了した夜、特集班が各デスクごとに班員と打ち上げをする。一次会が終わると、二次会で各班が次々に合流し、大飲み会となる。明日から大連休ですので、心ゆくまでのめる。今、思い出しても楽しい時間です。ここ2年はコロナで班会を中止していましたが、緊急事態宣言やまん防が明けた今回は、小規模ながら実施した班もあったそうです。

 私は記者の時、合併号休みはよく海外に行っていました。忘れられないのは、記者になって2年目の夏の合併号休みです。私は、その前年に「週刊文春」に異動してから、ほぼ半年間、田中真紀子外相(当時)の取材を毎週していました。外務省とバトルを繰り広げ、最後は外相を更迭された「真紀子劇場」。外相辞任後も、秘書給与流用疑惑を取材していました。夏の合併号休みでアメリカのロッキー山脈に遊びに行き、帰国した成田空港で新聞を買いました。「新潟5区の補欠選挙」というニュースが出ています。なんと、その間に真紀子氏は議員辞職していたのです。ずっと追いかけてきた政治家が、休みの間に辞めていた。脱力しました。ネットの発達した今なら、リアルタイムで情報が入ってきて、気が気ではなかったでしょう。

 その真紀子氏は、政治家を引退し今回、勲一等を受章したと聞き、あの成田空港を思い出しました。

 さて、合併号休みは、記者にとって心置きなく休める時間なのですが、例外もありました。それは2年前のゴールデンウィーク。当時の安倍政権が検察庁法を改正してまで検事総長に据えようとしていた黒川弘務・東京高検検事長が賭けマージャンに興じるという情報が飛び込んできたのです。もし事実なら空前絶後のスクープになる。しかし、合併号休み……。迷いましたが、急遽、大チームを編成することにしました。ただ、何度も言いますが年に3回の貴重な合併号休み。本人の意向を無視して「出ろ」とは言えません。そこで、張り込みスキルが高く、かつ動けそうな面々に一人一人電話して、打診しました。結果は、全員OK。実は、2年前のGWは緊急事態宣言の真っただ中。みな、旅行にも行けず「ステイホーム」していたのでした。現場からすれば、私の“打診”は、拒否権のない召集令状と受け取めざるをえなかったのかもしれませんが……。

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source : 週刊文春

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