吉野家、くら寿司……企業スキャンダルが大きくなる時

編集部コラム 第56回

「週刊文春」編集長
ニュース 政治

 今週は、企業を取り上げた記事がよく読まれています。一つは、常務が「生娘シャブ漬け戦略」を自慢げに語った吉野家。私は、この10年間、企業のスキャンダルを何度も記事にしてきました。たまに、企業の広報の方たちに「危機管理」について、お話させていただくことがあります。その際、いつも申し上げているのが「コンプラの問題が、ガバナンスの問題になった時に記事は大きくなる」。

 大企業になると万の単位で従業員がいます。セクハラ、パワハラ、さらには薬物や痴漢などの罪を犯す人間は、どうしても一定の割合で出ます。ただ、個人の失態を「なかったこと」にしようとした瞬間に、企業全体のガバナンスの問題となり、役員会の責任となってくるのです。

 吉野家常務の発言は、その意味で「一発アウト」な案件でした。まず、発言者が役員であったこと、そして、発言が職務そのものの内容だったこと。企業戦略の担当役員が、「生娘シャブ漬け」を戦略として、有料の講義で生徒に語ってしまった。この件は、最初からガバナンスの問題でした。その意味で、すぐに取締役会を開いて、解任した吉野家の判断は正しいものでした。あとは、いつ会見で説明するか。当該役員の「個人的見解」で済ませるのか、そんな人物に企業戦略を担わせていた自らの企業体質に踏み込んで謝罪・説明するのか。注目されます。

 一方、驚いたのが、今週号で報じた大手回転寿司チェーンの「無添くら寿司」の対応でした。東証プライムに上場し、コロナ禍でも業績絶好調の「くら寿司」。そこで店長を務めていた中村良介さん(仮名・享年39)は勤務先の駐車場で車内で火を放ち、命を絶ちました。「文春リークス」には、焼け焦げた写真と共に、中村さんを知る人の無念の想いが綴られていました。

 グラビア班に所属するT君が取材を始めると、一緒に働いていた人から、証言が得られました。中村店長は、上司であるスーパーバイザー(SV)のX氏から、強い言葉で𠮟責を受けていたというのです。T記者が、グラビア班の仕事もこなしながら、取材を続けたところ、複数のディテールのある証言が得られました。その結果を受けて、くら寿司に事実確認の取材を申し入れたところ、3時間で回答が来ました。「パワハラはない」というのです。

 通常、こうした事実確認には時間がかかります。パワハラは、“加害者”が否定することは少なくありません。周囲の従業員などの調査を完璧にしたうえでの否定だったのか。小誌の取材結果と明らかに食い違います。さらに、会社側の弁護士から「遺族が公表を望んでいないので、報道は慎重に検討してほしい」との“お願い”も届きました。

 そこで、N記者に取材班に入ってもらい、証言をさらに積み重ね、パワハラをしていたとされるSVのX氏にも再度、確認取材を行いました。そして再び、くら寿司に取材を申し込みました。返ってきた答えは、やはり「パワハラはない」。その上で、中村店長の自殺の理由は、

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source : 週刊文春

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