「性加害告発」スクープ記者の苦悩

編集部コラム 第55回

「週刊文春」編集長
ニュース 政治

「芸能界の性加害」の記事が大きな反響を呼んでいます。まず映画「蜜月」の榊英雄監督から始まり、俳優の木下ほうか氏、プロデューサーの梅川治男氏への告発と続いてきました。一連の被害者たちの告発を受けて、是枝裕和さんら映画監督や、映画の原作を手がける作家らが性加害の撲滅を訴える声明を発表しています。そして、今週号では女優の水原希子さんが小誌の取材に対して、長文のコメントを寄せてくださいました。水原さんはコメントを出した理由をこう綴っています。

〈もしかしたら今後どこかで役者を夢見る女の子に、製作者側が私の名前をネームドロッピング(編集部注 繋がりのある有名人の名を会話に入れ込むこと)をして、映画に出すよ、などと言い、被害に巻き込まれるという事態は絶対に起きてほしくないと願っています。なのでその様な事を言ってくる人がいたら騙されて欲しくないし、逃げてください。日本の芸能界、映画界には真っ直ぐな思いで作品を作ってる方が沢山います〉

 一連の記事を書いてきたのが、播磨谷拓巳記者です。なぜ、実名なのかと言えば、彼は実名、顔出しでツイッターで発信している記者だからです。播磨谷記者が「週刊文春」に来たのは3年前。もともとネットメディアで記者をしていました。そこで、何本かスクープを飛ばしていましたが、記者として「もっと取材がしたい」「もっとスクープをとりたい」と伝手を頼って、連絡してきたのです。

 その情熱は本物でした。ネットメディアではエースとして活躍していた彼も、小誌に来た当初は若手記者の一人。アシばかりでした。ネットメディアでは、アポ無しで直撃取材をしたり、事件現場で地どり(近所の人などに話を聞いていくこと)することはほとんどないそうです。しかし、慣れない事件取材に入れても、腐らず熱心に聞き込みを続けていました。全くやったことのない張り込みでは、一生懸命くらいついていっていました。張り込みのエース・O記者が「アイツは学ぼうという意識がすごく高い」と褒めていたことを思い出します。

 そして、小川彩佳キャスターの夫(当時)の不倫などのスクープをモノにした彼が、今回、自らとってきたのが、榊監督の性加害告発でした。自分のスクープで世の中が動く。皆さんは、記者はうれしくてウハウハな毎日を送っていると思っているかもしれません。

 しかし、実は大きなスクープになればなるほど、出た後が大変なのです。書かれた側の反論への対応、辛い体験を話してくださった告発者のケア、他メディアから「告発者を紹介してほしい」などの連絡も来て、やることだらけ。一方で、第2弾への期待も高まります。そこに迫る他メディアの後追い…。また、今回は、性被害という非常に重い体験を数多く聞くことの精神的な負担も小さくありません。

「芸能界の性加害」の記事は、現在第6弾まで来ました。先日、編集部にいた播磨谷記者に声をかけると、「いや、しんどいです」と言っていました。

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source : 週刊文春

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