第一報を聞いた時は、こんなに大きな騒動になるとは思わなかった――。山口県で起きた4630万円の誤送金を受けた24歳の男性が、返還を拒否し、行方をくらました事件がまさにそうでした。率直に言って、小誌の出足は遅れました。

 事件が明るみに出たのは、ゴールデンウィーク明け。気にはなっていましたが、知床の漁船沈没事件などに取材班を投入し、この件はスルーしました。ゴールデンウィーク明けの号を校了した直後には、上島竜兵さん自殺の一報が飛び込んできました。今週号のスタートである木曜日のプラン会議で、ここに大チームを充てることにしました。ところが、4630万円の報道がどんどん大きくなってきます。

「週刊文春」では、毎週土曜日の15時から、デスク5人と私で「中間会議」を開きます。取材状況を記者たちからヒアリングして、撤退するもの、記者を増員するもの、新規発進するものを決めます。ようやく、事件のエースM記者と事件大好きH記者を山口に送ることを決めました。ここで、担当デスクから「現地までは行くだけで5、6時間かかる。後で追加投入するくらいなら、今、空いているK記者も入れてはどうか」との意見が。それで3人のチームになりました。

 しかし、翌日曜日に現地から衝撃の情報がもたらされます。ライバル誌「週刊新潮」が4人の記者を投入しているというのです。新潮は、以前からこの問題を報じており、大きくリードされていることがわかりました。エースM記者からも珍しく「今回は厳しい」との報告。そうこうしているうちに、テレビでの扱いはさらに大きくなっていきます。

「やっちまった~」。悶々としながら、校了日の火曜日を迎え、ゲラを読んでいました。ところが――。男性が大麻を常習しているとの衝撃証言が書かれているではありませんか。聞けば、月曜日の夜にどんどん取材が進んだというのです。なぜ、24歳男性が田舎の一軒家に引っ越したのか、その謎も見事に解明されています。

 急遽、他の記事を次号に送ることを決め、2ページに増やして、大きな扱いにすることにしました。スクープの端緒を掴んだのは、播磨谷拓巳記者。彼は、「出演女優が告白 巨匠監督作品の性被害」の記事を担当していましたが、原稿執筆を終えており、自ら志願して、もうひと現場やってくれたのです。彼がキーマンを割り出して取材し、M記者が他メディアを圧倒する記事を書いてくれました。

「週刊誌の編集長は朝令暮改を恐れてはならない」。これは前編集長にいわれた言葉です。ニュースは生もの。日々、状況は変わります。現場の苦労はわかりつつも、読者が一番読みたいものは何なのか。それを判断基準の第一とする。

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source : 週刊文春