中国の始皇帝とか、ローマ帝国の皇帝ネロとか、世界史上“暴君”と呼ばれる政治家は数多い。似たような人物を日本史上で挙げろと言われると、なかなか難しいが、室町幕府六代将軍、足利義教(よしのり)などは、わが国では非常に珍しい“暴君”タイプの政治家と言えるだろうか。
彼は三代将軍義満(よしみつ)の子として生まれたが、長兄義持(よしもち)がいたため、最初、10歳にして仏門に入れられる。ところが、四代将軍義持の子で五代将軍の義量(よしかず)が早世し、義持には他に後継ぎもいなかったため、六代将軍は義持の4人の弟たちのなかからクジ引きで選ばれることになる。クジ引きで将軍を決めるだなんて、と思われるかも知れないが、当時、クジは神様の意志を知る手段と考えられ、さほど異常な選抜方法とは考えられていなかった。このクジ引きで、みごと六代将軍の座を射止めたのが、義教なのである。時に35歳。
しかし、将軍になった後の義教は専制的な政治を行い、次第に“暴君”としての本領を発揮するようになる。
朝廷の儀式で、かすかに「笑った」というだけで、ある公家は所領を没収されているし、庭に植えるための梅木を運搬する途中、その枝を折ってしまったばかりに、運搬責任者の武士たちは切腹させられている。他にも、料理に不手際があったという理由で、料理奉行が斬首。謹慎中の公家の屋敷を密かに監視させ、そこを訪れた来客60余名を後日に一斉処罰。さらには当の主人にも刺客を差し向け、密かに暗殺してしまう。
こうした苛烈な弾圧の数々を、時の人は「万人恐怖」と形容し、義教を「悪将軍」と呼んで戦慄した。一説には、義教の在職中に粛清された人々は、公家・武家・庶民をあわせて200人以上にのぼるとも言われる。
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source : 週刊文春 2022年10月13日号