門外漢が「介護は儲かる」「老人は歩くダイヤ」と介護事業に乗り出すケースは数多い。だが、そうした素人を狙う“プロ”がいるのもまた事実だ。三重を舞台に起きたケアマネによる1億円横領事件から読み取れる教訓とは――。
私の手元に、三重県の地銀・三十三銀行が発行した「預金取引明細表」がある。昨年11月、同県で介護事業を営む会社、「いやしの心」(以下・心社)の関係者が、銀行口座の出入金履歴を調べるため、銀行から取り寄せたものだ。
「被害額は、現在わかっているだけで1億円以上にものぼります。気づいたときには、会社の口座残高が、わずか7万円でした」
そう話すのは、同社の社長である。実はこの明細表には、心社の元取締役でケアマネジャーの男性H氏(39)による横領の痕跡が残されているという。
「今回のような経営幹部の不正行為は、全国どこの介護施設でも起こり得ることだと思います。というのも、介護業界は、副業や投資目的で事業を始める人が多い。経営をすべて人任せにしていると、幹部の不正に気づかず、取り返しのつかないことになる。そして、もし会社が倒産すれば、被害を受けるのは経営者だけでなく、利用者さんにも多大な迷惑がかかります。今回、うちの会社で起きたことを公にすることで、副業や投資目的で介護事業を始める経営者が、少しでも高齢者福祉について真面目に向き合ってくれればよいと思い、恥を忍んで事件についてお話ししようと思います」
そう社長は言いながら、膨大な資料を前に、事の顛末を話し始めた。
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source : 週刊文春 2023年3月23日号