2月13日、宇宙への憧れと未来への希望を描き続けた巨匠が85歳で旅立った。永遠に読み継がれる名作が、漫画という枠を超えて各界に与えた影響とは―。15歳で商業誌デビューし、独自の宇宙を創造した漫画家の軌跡を総力特集する。

四畳半から無限の宇宙へ…青春と熱狂の“松本ロマン”

「四畳半」と「大宇宙」が松本零士のロマンの両輪だった。松本作品の主人公たちは、「四畳半」の小さな世界で見果てぬ夢を抱え「大宇宙」を見上げる。「戦争」はその夢を阻むどうしようもない現実として描かれる。

 1957年に上京した松本は、60年代に入るとSF漫画で目ざとい少年たちの注目を集めた。71年には四畳半の下宿が舞台の『男おいどん』が大ヒットし、人気漫画家となる。

写真提供 時事通信

 松本は同時に、アニメーションの撮影装置を自作するほどのアニメマニアでもあった。74年のアニメ『宇宙戦艦ヤマト』の企画に声がかかると、メカやキャラクターのデザインなどで腕をふるい同作の世界観を作り上げた。

 松本は自分の世界をもっとアニメで表現しようと、ロボットアニメ(『惑星ロボ ダンガードA』として放送)への参加を乞われた時、逆に『銀河鉄道999』と『宇宙海賊キャプテンハーロック』の企画を提案。この企画は通らず両作は漫画として発表されたが、77年に劇場版『ヤマト』がヒットすると、両作ともアニメ化が決定。その後も様々な松本アニメがそのロマンで80年前後の10代を熱狂させた。彼らは戦中派の松本の子供世代に当たる。

「零士ファミリー」©松本零士/零時社

 彼らが一期一会の出会いを果たした松本ロマン。それは『999』のメーテルにも似た“青春の幻影”であった。

文 アニメ評論家・藤津亮太

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source : 週刊文春 2023年4月6日号