「私は第一回大会からずっと侍ジャパンを見てきましたが、今回は今までに無いタイプのチームでした」

 

 そう振り返るのは、30年以上にわたり野球日本代表のトレーナーを務めてきた、日体大准教授の河野徳良氏(58)。誰より侍ジャパンを知り尽くす男だ。

 2006年の第一回大会からWBCに同行し、今大会もヘッドトレーナーとして重責を担った河野氏。全米アスレティックトレーナーズ協会の公認資格(ATC)も保有し、チームを水面下で支えてきた。

「各球団からの派遣も含め、15、6人のトレーナーが侍ジャパンに関わっていました。そのうち球場に入れるのが公式トレーナーの4人で、大会の規定上、ベンチに入れるのがATCを持つ私ともう1人のトレーナーだった。これまで僕がベンチ入りした時に日本が点を取るというジンクスがあるので、縁起を担いで準決勝のメキシコ戦は、0対3の六回にベンチ入りしたんです。『今日は厳しいかなぁ』なんて思っていたら、7回に吉田正尚選手の本塁打で同点、九回にあの劇的な逆転勝ち。いやぁ、本当に良かったです!」

 大会を通じて最も印象的だったと振り返るのは、“あの選手”の大きな変化だ。

「ダルビッシュ有投手です。第二回大会(09年)の時は、マッサージに使うパウダーをイタズラして僕の鞄にぶちまけるようなヤンチャな男だった(笑)。ところが今大会では、宮崎キャンプ中に『河野さん、今回のチームの雰囲気どうですか?』って聞いてきたんです。チーム最年長ということもあって意識していたかもしれませんが、それこそイチロー選手は“俺の背中を見てついて来い”というスタイルだった。でも、ダルビッシュ投手は違っていた。年齢分け隔てなく彼のほうから、積極的に声をかけていました」

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source : 週刊文春 2023年5月4日・11日号