池袋の駅前で、私の体は宙に舞った。
1ヶ月前のこと、お芝居を観に行った帰りである。
私はスニーカーを履いていた。この頃は、猫背気味になるのもよしとして、足元をちゃんと見る。ヒールのあるものはほとんど履かない。かなり用心していたのであるが、ついあたりを見わたした。一緒にいた人に、
「私、学生の頃、池袋に住んでいたことがあるの」
と話しかけた。
東京芸術劇場がある西口にはしょっちゅう来ているのであるが、西武がある東口は何年かぶりだろう。
私が大学生の頃、西武の前はごちゃごちゃした商店街であった。その路地を入ったところにあんみつ屋があり、私はそこでアルバイトをしていたのである。
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source : 週刊文春 2023年6月8日号