6月初旬、港区芝浦の東芝本社。島田太郎・代表執行役社長兼CEO(56)ら、執行役が参加する定例会議「エグゼクティブミーティング」の出席者に、極秘文書が配布された。そこに記されていた衝撃の“数字”とは――。
東芝は2015年に発覚した不正会計問題以降、経営の混乱を重ねてきた。2016年には、米原子力子会社ウェスチングハウスに関する巨額減損を計上し、債務超過に転落。2017年には約6000億円の第三者割当増資を実施したが、その際、アクティビスト(物言う株主)の保有比率が高まった。
「以降、東芝はアクティビストとの関係に翻弄され続け、再建戦略の迷走を余儀なくされます。2021年4月には、当時の社長・車谷暢昭氏が、自身の古巣CVCキャピタル・パートナーズからの買収提案を巡り、利益相反の疑いが指摘され、経営トップを辞任。後任には綱川智氏が就いたものの、今度は会社分割案を巡り、アクティビストと激しく対立した。結局、綱川氏も2022年3月に辞任し、社長に就任したのが、執行役上席常務だった島田氏です」(経済部記者)
島田氏は甲南大学を卒業後、1990年に新明和工業に入社。1999年に米ソフトウェア会社に転職した。この会社を2010年に独機械大手シーメンスが買収し、その後、2015年にはシーメンス日本法人の専務に就任。そんな島田氏を2018年、デジタル分野の旗振り役として引っ張ってきたのが、車谷氏だ。
「ところが、その車谷氏と、綱川氏が社長を連続辞任。島田氏は『火中の栗を拾う』と言って社長に就任しました。190センチを超える長身で、『私はビジョナリーな(先見性のある)人間』と公言してきた。経営危機は収まっていませんが、2023年3月期の役員報酬は3億6800万円に及びます」(同前)
取締役会議長が疑問を呈した
その島田氏も、アクティビストの影響力排除を最優先課題としてきた。そうした中、起死回生の策として掲げたのが、株式の非上場化である。今年3月23日には、日本産業パートナーズ(JIP)からの買収提案の受け入れを発表。株式公開買い付け(TOB)で非上場化を推し進め、経営の安定化を図るというものだ。
ただ、懸念点も少なくない。JIPによる買収総額は約2兆2000億円規模とされ、うち約1兆4000億円を三井住友銀行やみずほ銀行など、国内5行からの融資で賄う。だが、東芝の再建が難航すれば債務返済が滞り、銀行団の損失に繋がりかねない。そこで時間をかけてまとめられたのが、融資の条件として、一定の預金額の維持など財務健全性を求めるコベナンツ(財務制限条項)だった。
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