紀州・道成寺には語り継がれる伝説がある。愛した男を追った女は、思いのあまり大蛇と化して釣り鐘に隠れた男を焼き殺すと、自らも命を絶ったという。その数百年後の物語が歌舞伎舞踊の人気演目「京鹿子娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)」である。

 女方舞踊の最高峰と称される名作をいま最も美しく踊るのは五代目尾上菊之助(45)。菊之助扮する花子は、焼け落ちた鐘が再興された寺で実に艶やかな舞を披露する。やがて花子は鐘に上ると、突如大蛇の姿と化した。美しい白拍子の正体は、男を隠した鐘を恨む亡き女の怨霊だったのだ。

 女の愛憎を描く本作品には、花子を2人で演じるものもある。坂東玉三郎と菊之助の「二人道成寺」もまた傑作中の傑作だ。この夏は大阪松竹座で「娘道成寺」を1人踊った菊之助。3週間、劇場と宿舎のホテルを往復する日々だった。

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source : 週刊文春 2023年8月3日号