週刊文春 電子版

討ち死にの伝説|清水克行

室町ワンダーランド 第69回

清水 克行
ライフ 教育 歴史

 以前、僕がよそで「一生懸命」という言葉を使ったら、一般の方から、間違った言葉遣いだ、というお叱りをうけたことがある。「一生懸命」は正しくは「一()懸命」で、鎌倉時代の武士が自分の土地「一所」を守ることに命を懸けたのが、その由来。日本中世史の学者なのに、そんなことも知らないのか、というわけだ。

 いやいや、知ってますよ、そんなことぐらい。でも、いまや「一所懸命」よりも「一生懸命」のほうが完全に市民権を得てるじゃないですか。そんななかで、頑なに日常で「一所懸命」を使い続けるほうが、インテリぶってイヤミじゃなかろうか。

 そして、なにより「一生懸命」にも、ちゃんとした由緒があるんです。小学館の『日本国語大辞典 第二版』の語源解説によれば、「一生懸命」という言葉が生まれたのは、江戸時代のこと。江戸時代は、町人文化が花開いた時代だ。それまでの武士の価値観が後退して、町人の価値観が世に広まっていく。そんななか、武士本位の土地領有中心の観念が、町人本位の貨幣経済主体の社会のなかでは、それほど切実なものとは考えられなくなっていく。そこで江戸の庶民たちは、武士たちの作った「一所懸命」にかわる言葉として、「一生(、、)懸命」という新たな言葉を編み出したのだ。そう、「一生懸命」という言葉には、江戸庶民の心意気と近世という時代の新たな価値観が込められていたのだ。

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source : 週刊文春 2023年9月21日号

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