日本でいう背広──スーツは、ユニフォームであるとともに、着る者を最も
魅力的に映す武器である。だからこそ上質な素材を用い、細部まで丁寧に
仕立てられたそれの吟味は欠かせない。シャツやタイとの色柄の相性も
重要だ。人物の格を上げるスーツの素材、仕立て、スタイルを研究しよう。
Photographs:Osami Watanabe(Sammy Studio)
Styling:Hiroki Tsuchiya
Edit&Text:Daisuke Hata
Design:Anaguma
マッキントッシュ ロンドン|Mackintosh London
威厳や貫禄を示すのに、ダブルブレストのスーツは有用だ。幅広のストライプが走るそれはなおさらで、着る者に堂々たる印象を与えてくれる。このスーツは、イタリアの名門生地メーカー「ロロ・ピアーナ」のナチュラルストレッチ生地を使用したもの。しなやかなタッチでありながら防シワ性に優れ、1日を通じて品格を保ってくれる。ブランドの代表モデルである「ニューブリッジ」をベースとした仕立ては、極めて軽やか。見た目とは裏腹に、着心地が楽なのも嬉しい。スーツ¥187,000、シャツ¥25,300、タイ¥19,800/以上マッキントッシュ ロンドン(SANYO SHOKAI カスタマーサポート ☎0120-340-460)、スーツケース¥330,000/グローブ・トロッター(ヴァルカナイズ・ロンドン南青山 ☎03-5464-5255)、靴¥204,600/エドワード グリーン(シップス 銀座店 ☎03-3564-5547) ※チーフはスタイリスト私物
カルーゾ|Caruso
有名メゾンのスーツ生産も手掛けるイタリアの名門ファクトリーへ、シップスが別注。かつて展開されていたモデルをベースにした、クラシカルな佇まいのスリーピーススーツである。目を惹くのは、何と言っても11cmのワイドラペル。低めのゴージラインが、その堂々たる印象を際立たせている。ほのかに起毛したウール生地は、表情豊かなピンヘッド柄。色味を拾い、他アイテムをブラウン基調でまとめるとエレガントに装える。なお合わせたプリントタイは、9.5cmと幅広。ワイドラペルのスーツには、同じく幅広のタイが好相性と心得られたし。スーツ¥199,100、ベスト¥50,930/以上カルーゾ × シップス、シャツ¥15,400/シップス、タイ¥24,970/フラテッリ ルイージ(以上シップス 銀座店 ☎03-3564-5547)、チーフ¥9,900/ステファノ カウ(バインド ピーアール ☎03-6416-0441)
リッド テーラー|Lid Tailor
東京・西荻窪の名テーラーの監修による、メイド トゥ メジャーのスリーピーススーツである。背広の語源とも言われるスーツの総本山、英国はサヴィルロウのソフトテーラリングに精通するテーラーだけあって、そのスーツは構築的でありながら自然な肩傾斜に近い、柔らかなショルダーラインを描く。一目で上質とわかる生地は、英国の老舗生地商「ハリソンズ・オブ・エジンバラ」の「クリュ クラッセ」バンチの1枚。シルクが混紡されており、なまめかしい艶やしなやかなドレープが目に心地よい。誂え服ゆえ、パンツはやはりベルトレスが気分だ。スリーピーススーツ¥426,140(オーダー価格、納期約6週間〜)/リッドテーラー、シャツ¥59,400/バド、タイ¥29,700(※10月より販売開始)/ヒル&ドレイク、チーフ¥14,300/ディエッフェ・キンロック(以上伊勢丹新宿店 ☎03-3352-1111)
リングヂャケット|Ring Jacket
世界に名だたるテーラリング技術を誇るリングヂャケットの上級ライン「マイスターモデル」のブラックスーツである。最低限の副資材を用い、手作業を惜しまずに仕立てられたそのスーツは、見た目にも軽く、柔らかな丸みを帯びたシルエットを描く。素材はモヘヤを混紡したウール地であり、特有のハリがシルエットの輪郭を美しく際立たせる。品のいい艶感も、モヘヤ混ならでは。まさしく、華やかなフォーマルシーンにうってつけの一着といえよう。スタイリングは当然、モノトーンが基本。控えめの柄が入ったタイを選べば、さりげなくこなれた印象を添えられる。スーツ¥242,000/リングヂャケットマイスター、シャツ¥42,900/リングヂャケット ナポリ、タイ¥31,900/ステファノ カウ、チーフ¥12,100/カルロ リーバ(以上リングヂャケットマイスター 206 青山店 ☎03-6418-7855)
ブルックス ブラザーズ|Brooks Brothers
アメリカントラディショナルの始祖、ブルックス ブラザーズより、カントリーテイスト溢れるグレンチェックスーツ。生地はフランネルの大家である英「フォックスブラザーズ」のそれ。目付400gとウェイトがあり、力強いハリコシが、程よいゆとりをもって身体に沿うスーツの輪郭をエレガントに浮かび上がらせる。大人の余裕が滲むスーツであるから、コーデは肩の力を抜いて。カントリーの様式に倣い、動物柄のタイなどを合わせるのも気分だろう。シャツは、チャーミングな色柄のボタンダウンシャツをセレクト。オックスフォード生地の風合いが、フランネルのスーツによく似合うのだ。スーツ¥198,000、シャツ¥16,500、タイ¥20,900、チーフ¥6,600、椅子にかけたボウタイ¥11,000/以上ブルックス ブラザーズ(ブルックス ブラザーズ ジャパン ☎0120-02-1818) ※バッグは参考商品
ブレス銀座|Bless Ginza
高級テーラーひしめく背広の聖地に店を構えるブレス銀座は、仮縫い工程を踏みミリ単位で調整するフルオーダーにより“あなたにとって最も綺麗なスーツ”を仕立てることを掲げるテーラー。縫製を行うのは日本の職人。立体的な丸みをもって肩や胸をなぞるシルエットが、優れた仕立て技術を証明している。ピンストライプが主張するこちらのスーツは、素材が伊「ロロ・ピアーナ」のスーパー170'Sという特上のウール生地。極細原毛ならではの艶、しなやかさがもたらすドレープの陰影にラグジュアリーな趣が溢れる。スーツ¥275,000(オーダー価格、納期約4週間)、シャツ¥31,900(オーダー価格、納期約4週間)、タイ¥19,800、チーフ¥7,480(以上ブレス銀座 ☎03-3562-6900)、棚に置いた眼鏡¥49,500/シャルマン(シャルマン カスタマーサービス ☎0120-480-828) ※帽子は参考商品
麻布テーラー|Azabu Tailor
様々な業界のエグゼクティブを顧客に持ち、着巧者からの信頼も厚い麻布テーラー。支持される理由には、優れたフィッティングや仕立ての技術に加え、鋭敏なセンスに基づくスタイル提案がある。ピークトラペルに精悍な印象が滲むこちらのスーツは、伊「クロス エルメネジルド ゼニア」へ特別に別注した「アイランドフリース」生地を使用したもの。伊製生地というとしなやかなタッチを備えたイメージがあるが、希少な原毛からなるこの生地は英国的な力強いハリコシを有し、毛芯使いと相まってそのシルエットを美しく浮かび上がらせる。ビッグヘリンボーンのさりげない織り柄も、実に趣味がよい。スーツ¥163,900(オーダー価格、納期約4週間)、シャツ¥18,150(オーダー価格、納期約4週間)、タイ¥7,150、チーフ¥1,650/以上麻布テーラー(メルボメンズウェアー ☎06-7662-5476)
タリアトーレ|Tagliatore
威厳や貫禄といった印象を与えるのもスーツの役割だが、会食などあまり堅苦しく映っては都合が悪いシーンもある。そんなときにうってつけなのが、ベージュのスーツである。イタリアはプーリア州の名ブランドによるこちらは、肩パッドを排したアンコン仕立て。肩の縫い線を後ろへオフセットした独特の作りで、極めて柔らかなショルダーラインを描く。腰ポケットは、カジュアルなパッチタイプ。ベージュの色味とスーツの寛いだ雰囲気が、実によくマッチしている。シャツとタイは同系色のそれを選んで、温かみを活かしたい。スーツ¥199,100/タリアトーレ(トレメッツォ ☎03-5464-1158)、シャツ¥31,900/ギ ローバー、タイ¥17,600/ステファノ カウ(以上バインド ピーアール ☎03-6416-0441)、眼鏡¥49,500/シャルマン(シャルマン カスタマーサービス ☎0120-480-828)
ダーバン|D'urban
50年以上に渡って日本のビジネスマンの装いを支えてきたダーバンは、背広の研究という企画になくてはならないブランドであろう。日本人体型に即し、アイロンワークも駆使して立体化されるそのスーツの真骨頂は、「体を丸く包む」と形容される作りにあり。真っ当に品格と着心地を追求した、まさしく日本のスーツがここにある。尾州製の艶やかなシャドーストライプ生地を用いたこちらは、とりわけ若々しい印象のする一着。ウエストはスマートに絞られ、パンツもノータックのすっきりしたシルエットを描く。ブルーグラデを意識し、クリーンにこなしたい。スーツ¥88,000、タイ¥19,800/以上ダーバン(オッジ・インターナショナル durban-press@oggi-inter.co.jp)、シャツ¥24,970/ギ ローバー × シップス(シップス 銀座店 ☎03-3564-5547) ※チーフはスタイリスト私物
source : 週刊文春 2023年9月28日号