ラクに生きたい。何がラクなのだろうか。使う労力が少なければラクというわけではない。
一日中、哲学の論文を読み、何十年の間、寝ても覚めても哲学の問題に取り組むことはふつうの人には苦行だろうが、問題を解きたい一心の哲学者にとっては努力ですらない。朝から夜まで飲まず食わずでパチンコをするのが努力とは言えないのと同じだ。
何がラクかは難しい。電車で老人に席を譲るのはラクだ。譲れば周囲の視線が刺さることはないし、座り続けて、目の前で倒れられでもしたら、一生悔いが残る。だから譲らないでいる方がむしろ難しい。
だが、わたしが席を譲ると、怒る高齢者がいる。自分より年上に見える者が自分を老人扱いするのを侮辱と思ってこう言う。
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source : 週刊文春 2023年11月2日号