「五輪は後で事件になるから」と招致の手伝いを 固辞した僕に安倍さんは「迷惑はかけない。 絶対に保証する」と約束した。なのに、事実に反した森さんの供述で、僕は逮捕されてしまった。 実は業者から「森さんに、いくら渡せばよいか」と聞かれ、僕はこう告げていました――。
「森さんから『あなたはマーケティング担当理事です』なんて言われたことは一度もありません。森さんが勝手なことを言っているだけ。委任の契約書にも、職務について何も明記されていない。つまり、職務権限のある『マーケティング担当理事』なんてものは存在しないんです。森さん、本当のことを言ってください」
こう語るのは一昨年8月に五輪の受託収賄事件で逮捕、9月に起訴された五輪組織委員会元理事の高橋治之被告(79)だ。
合計1億9800万円の賄賂を受け取ったとして起訴された高橋氏。一連の裁判では、すでに贈賄側の紳士服大手「AOKIホールディングス」青木拡憲元会長や、広告大手「ADKホールディングス」植野伸一元社長らが罪を認め、有罪判決が確定している。
一方、高橋氏の裁判は昨年12月に始まったが、高橋氏は起訴事実を全面否認。1月31日に行われた高橋氏側の冒頭陳述でも、受け取った金銭は「民間のコンサルティング業者としての報酬であって、賄賂ではない」として、無罪を主張している。
裁判で最大の争点となっているのは「職務権限の有無」だ。高橋氏の職務に「スポンサー集め」が含まれなければ、受託収賄罪は成立しない。検察側は高橋氏が「マーケティング担当理事」として、スポンサー集めに関する職務権限があったと主張。贈賄側の判決でもこれが認められた。
一方で高橋氏側は、検察の主張の最大の根拠が、検察側が証拠提出した、組織委員会の森喜朗元会長(86)の供述調書だと訴える。森氏はここで高橋氏について「スポンサー集めなどのマーケティングを担当してもらうことにした」と説明しているのだ。しかし高橋氏は冒頭のように、やるせない思いを口にするのだった。
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source : 週刊文春 2024年2月15日号