「歴史学者」などという肩書を背負っていると、一般の方から「歴史の研究論文というのは、どうやって書くものなのですか?」という質問をよくいただく。旧家の土蔵のなかから“お宝”の古文書を探し出してきて、大々的に発表したり。奔放な想像力を頼りに、歴史のウラに隠された、あっと驚く“逆説”を推理したり。残念ながら、そんな一般の方々がもつ派手なイメージとは、僕らが日常的に行っている研究活動は大きく異なる。そこで今回は、遥か30年以上も昔、僕が大学時代の卒業論文をどんなふうに書いたのか、というお話を通して、皆さんの疑問にお答えしてみたい。

「昭和」から「平成」への代替りから、まだ間もない当時、日本史における天皇の役割をどう考えるか? 天皇制はなぜかくも長く続いたのか?というのが、歴史学者のあいだの最もホットな話題だった。大学に入って歴史学を専攻していた当時の僕も、当然ながらそうした問題に興味をもって、身のほど知らずにも天皇制をテーマに卒業論文を書きたいなどという野望を抱いていた。

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source : 週刊文春 2024年4月4日号