昔、大王製紙の社長だった友人の井川意高さんと話していたとき、彼がこんなことを言っていた。

「藤田君、飲み食いで潰れた会社というのはないんだよ。潰れるのは、だらしなく事業をだらだらとやっている会社なんだ」

 製紙業界とネット業界の仕事の関連性は無いに等しく、井川さんと私は完全にプライベートの友人関係だ。井川さんには美味しいご飯やワインをずいぶんご馳走になった。とても気前の良い人で、明るく楽しいので、港区界隈では昔から人気者だった。私も一緒にいて心地が良かった。酒も女性もギャンブルも豪快に楽しむ井川さんの傍にいると、なんだか自分も赦されるような気になった。自分より真面目で優等生と一緒にいると劣等感を感じて息が詰まる、その逆なんだと思う。その後、カジノで荒っぽい賭け方をして100億円超負けて、特別背任の罪に問われたのは有名な話だけど、私は服役中に刑務所に面会に行ったほどの仲である。

 そんな井川さんの言葉は私の中でずっと印象に残っている。

 会社で利益を上げるためにコストを下げるとなると、とかく無駄使いに目がいく。特に接待交際費などは、効果がわかりにくい割に、本人たちだけが良い思いをしているのではないかという疑念も湧いて槍玉に上がりやすい。実際には飲み食いしたことが会社に巨額の利益をもたらす取引に繋がることもあるし、空振りに終わって単に食事をしただけになることもある。ただ、どんな高級食材を使ったレストランでも一人5万円、最近では10万円の店なんかも出てきたけど、それでもたかが知れている。

気づいた頃には破産まで

 一方で、事業で赤字を垂れ流した場合、数百万、数千万、数億円規模の損失が毎月コンスタントに重くのしかかっていく。もちろん将来的に取り返せる先行投資ならいいけど、みんな上手く行っていないことがわかっているのに、誰もやめると言い出せず、だらだらと赤字を垂れ流してしまう。もし会社のコストを下げたいなら、赤字事業からの「撤退」が何より本丸ということになるだろう。

 しかし、その「撤退」が非常に難しい。新たに事業を始めた際には、取引先や金融機関、そのために採用した人など多くの人を巻き込んでしまっているからやめると言い出すのは至難の業だ。中には失敗を認めることは社内の評価を下げることにつながり、キャリアの終わりを意味するほどの人もいるだろう。時には関係した人の人生まで左右することだってある。だから、井川さんがカジノでハマったギャンブルのように、倍プッシュ倍プッシュとつぎ込んで、一発当たれば今までの負けが全部チャラにできるという妄想に駆られ、気づいた頃には破産まで行き着いてしまう結末もありえる。

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source : 週刊文春 2024年6月27日号