高齢者専門の精神科医として、36年間で延べ6000人の患者を診てきた和田氏。その経験と世界中の論文から、幸福へのメソッドを導き出した。高血圧、糖尿病、アルツハイマーなど高齢者の「敵」への対処法を伝授する。

 今や日本人の約3人に1人が高齢者(65歳以上)です。定年延長や再雇用も大体、65歳でおしまい。でも、まだまだ体力もあって頭も明晰という方が多いのではないでしょうか。

 1960年生まれの私も、来年になれば65歳。前期高齢者の仲間入りですが、まだまだ老け込む気にはなれません。ところが巷には、「いまだに天動説を唱えているの?」というぐらい、一昔前の常識がまかり通っています。「高齢者は食べ過ぎるな。塩分を摂りすぎるな。高血圧に気を付けて降圧剤を飲め」となりがちですが、こうした言説を妄信していては、65歳以降は暗い下り坂のような人生になりかねない。

 

 でも実は、こんな注目すべきデータがあります。2020年に米ダートマス大学のデービッド・ブランチフラワー教授が、医学界の常識を覆す研究を発表しました。

 同研究では、世界145カ国を対象に「人生の幸福度」と「年齢」の関係性を調査しています。その結果、人生の幸福度が最低、つまりもっとも不幸なのは48.3歳でした。幼少期は幸せで、18歳以降、社会の荒波にもまれてどんどん幸福度が下がり、最も働き盛りの世代に不幸がピークに達する。そして50歳を過ぎると出世の行方も自分の能力の限界も見えてきて、仕事以外の活動にも目を向け始め、徐々に幸福度が回復する、というイメージでしょうか。

 そして、幸福度が最高値に達するのは、82歳以上であることも判明しました。これは、図にするとUの形に似ていることから「幸福のU字カーブ」と呼ばれています。

 ところが、日本では最も幸福なはずの高齢者が、まったく楽しそうではない。

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source : 週刊文春 2024年9月5日号