足利将軍の邸宅であった“花の御所”。その敷地の真ん中、寝殿と呼ばれる建物の、さらに中央に「御小袖の間」と呼ばれる1間×2間(約1.8m×3.6m)の厳かに閉ざされた一室があった。二重の戸で仕切られ、つねに御小袖御番衆という10人の幕臣が輪番で警護を務める、その奥まった部屋こそは、何を隠そう、足利家の重宝「御小袖」が安置される場であり、室町幕府にとって最も神聖にして不可侵な空間であった。
御小袖とは、足利家の先祖である八幡太郎(源義家)が着用したと伝わる卯花威の鎧(白糸で鉄板を綴った甲冑)のこと。足利家では、代々この鎧を所持することが当主の地位を握ることを意味し、それは天皇家にとっての“三種の神器”と同様、まさに足利家にとってのレガリア(王権の象徴)に他ならなかった。
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source : 週刊文春 2024年9月12日号