「鏡よ、鏡、この世で一番美しい人はだ~れ?」
ご存じ、「白雪姫」の物語に出てくる王妃(白雪姫の継母)の有名なセリフである。王妃の持っていた魔法の鏡は何でも真実を答える鏡で、それまで鏡はこの王妃の質問に「それは王妃様です」と答え、そのつど王妃を喜ばせていた。ところが、白雪姫が成長するにおよび、こともあろうに魔法の鏡は「この世で一番美しい」のは「白雪姫」である、と答えるようになる。
この答えを聞いた王妃は怒り心頭、その日から白雪姫の殺害を企む。というのが、「白雪姫」の筋書きだが、このとき魔法の鏡がもし真実を答えず、ずっと「一番美しいのは王妃様です」と答え続けていたら、物語はどうなっていただろう? あるいは、王妃は白雪姫の殺害を企てることもなく、幸せに満ちた一生を送っただろうか。それとも、彼女が自己像と真実のギャップに気づいたとき、悲劇はもっと大きなものとなっていただろうか……。
古来、歴史は“鏡”に喩えられる。『大鏡』、『今鏡』、『水鏡』、『増鏡』は、平安時代から室町時代にまとめられた歴史書のタイトルだし、鎌倉時代の『吾妻鏡』も、その名はよく知られているだろう。我が身を客観的に確認するとき“鏡”を見るように、日本人は“歴史”に接してきた。だから、その“鏡”がウソを映し出すことは、決してあってはならなかった。たとえそれが「あなたはそれほど美しくない」とか、「他にもっと美しい人がいる」といった、自分にとって甚だ不都合で不愉快なことであったとしても。
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source : 週刊文春 2024年10月10日号