1年間も燻り続けたセブン&アイ・ホールディングスに対する、カナダのコンビニ大手、アリマンタシォン・クシュタールの買収提案。両社は2025年4月、買収協議の前提となる秘密保持契約まで結んだが、7月17日にクシュタールが撤退を表明し、セブン&アイの粘り勝ちで終わった。

 同日、クシュタールは、セブン&アイの取締役会に宛てた書簡を公表。会社の資産を査定する手続きで十分な情報の提供を受けられず、意図的に混乱や遅延をもたらすような動きをしていたなど、4600字にわたって不満を綴った。一方でセブン&アイは「(クシュタール社が)発表した数多くの誤った記述について賛同しかねる」とコメント。双方の姿勢は食い違ったまま、物別れとなった。

 実は数カ月前から「早晩、クシュタールは撤退を表明するだろう」(大手証券幹部)と囁かれていた。理由は今回のFA(フィナンシャル・アドバイザー)が投資銀行のゴールドマン・サックスだったからだ。

「ゴールドマン・サックスは敵対的な買収には関与しないというのが企業ポリシー。それゆえ、クシュタールも敵対的TOBなどの強引な手法は選ばないだろうと言われていた」(同前)

 巨額な買収案件であるため、FAは数千万〜数億ドルの報酬を得られる可能性もあったが、ゴールドマン・サックスは最後までポリシーを貫いた格好だ。

 メガバンク幹部は「カナダは早々にトランプ大統領から高関税を課せられた。その影響もあり、クシュタールの業績が落ち込み始めたことも、買収交渉が頓挫した原因だろう」と指摘する。さらに、為替水準の変動の影響も見逃せない。買収提案した昨夏は、1ドル=160円台と歴史的な円安水準だったが、現在は140円台後半と円高に振れた。つまり買収コストも急騰することになるのだ。

 ただ、これでクシュタールがセブン&アイの買収を完全に諦めたと見るのは早計だ。創業者のアラン・ブシャール会長は、粘り強い性格で知られている。最初にセブン&アイの米国事業の買収を模索し、働きかけをしていたのは05年頃。この時の提案はすぐに拒否されたが、20年にも買収の提案をしている。今回が3回目だった。

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source : 週刊文春 2025年7月31日号