今年(2018年)12月8日に可決された入管法の改正問題もあり、メディアでは外国人技能実習制度への批判の声が上がっている。「技能実習」「国際貢献」といった建前とは裏腹に、実質的には人手不足に悩む日本の中小企業に低賃金労働者を送り込む制度と化していることはご存じの通り。問題が極めて多い制度であることは言うまでもない。
私は2017年末ごろから、この技能実習生問題に関連する仕事が増えた。なかでも印象に残った取材相手が、今年の春に『Newsweek 日本版』の特集記事で取材した范博文だった(『Newsweek』の記事の表記は「範博文」)。
辞書をまるごと暗記した達人
彼は中国内陸部の江西省南昌市出身の29歳の労働者だ。学歴は高等専科学校卒(事実上の高卒)で、直近の職業はガードマンである。
范とは中国のSNS『QQ』の技能実習生コミュで知り合ったが、なぜか異常なほど日本語の読み書きができた。通常、技能実習生は仕事上で必要な最低限の日本語しかできない例が多いため、彼はかなりの変わり種だ。理由を聞いてみると、日本に来てから職場でバカにされたので腹が立ち、辞書をまるごと一冊暗記して覚えてしまったらしい。
彼はなんと日本語能力試験の最高レベル、N1の取得者だった。趣味はスマホを使って、日本のYahoo!ニュースなどの報道記事を読むことだという。
技能実習生当事者の肉声
そんな范は帰国後、特に「技能」を活かす場も得られず田舎町のガードマンとして暮らしていた。だが、春の取材以来、私を含めて何人かの日本人と知り合ってから考えを変えたらしく、一念発起して学歴を付けるために日本に留学しようと考えたのであった。
彼が目指したのは、筆記試験なしの面接のみで合否が決まる某私立大学のAO入試だ。私は半年前に彼を取材した縁もあって受験用の来日のビザ取りを手伝い、府中市内にある私の仕事場に1週間ほど泊めてあげたのだった(だが、無骨すぎる性格が誤解を招いたのか、元技能実習生の経歴のせいで就労目的だと思われたのか、面接には落ちてしまった)。
とはいえ、せっかく3年ぶりに日本に来たのに大学受験だけで帰るのはもったいない。そこで、技能実習生時代の経験について彼に文章を書いてもらい、それを私が記事にしてみることにした。
最初は適宜、私が校正や再編集をしようかと思ったのだが、文章を見るとそのままのほうが味がある気がしたので、原文そのままで紹介していきたい。技能実習生の経験者本人が、これだけまとまった量の肉声を日本語で語るのは、おそらく本邦初だろう。じっくりとお読みいただきたい(以下、手記部分は原文ママ)。