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第95回箱根駅伝で「高校時代にもっとも遅かったランナー」の成長曲線

雑草たちの箱根駅伝 #2

2019/02/10
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記録を伸ばせる特効薬や、ブレイクスルーは存在しない

 とはいえ、走力は一気に伸びてはくれない。高校時代は朝練すらしたことがなかった鈴木にとっては、最初は練習についていくのがやっとだったという。

「朝と午後の2部練習という生活も初めてでしたから。寮生活にもなって、生まれて初めて陸上競技のことを中心に考える毎日になった。急にハードな練習ができるわけでもないので、とにかく心がけたのは、ひたすら当たり前のことを当たり前にやることです。朝練習だったら60分ジョグを毎日、絶対に走る。そこに基本的な動きの確認をしっかり入れてみる。ひとつひとつは簡単なことなんですけど、それを絶対にサボらないように徹底しました。スポーツ推薦の子たちと比べれば、より頑張らないといけないという意識もありましたし、とにかくまずは同期に追いつかないと、と思っていました」

 

 大雑把に言ってしまえば、基本的に陸上競技のトレーニングは走るだけだ。動きづくりや筋トレ的な要素もあるにはあるが、そこには爆発的に記録を伸ばせる特効薬や、ブレイクスルーは存在しない。だからこそ、鈴木は「意識の持ち方」を大切にしたという。

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「大学では強い先輩や都大路を走ったこともあるような同期もいたので、まずはいろんなことを聞いて、それを吸収しよう、自分のものにしようということを意識していました。『どんな練習していたの?』『どういうところを意識するの?』と具体的な質問をどんどんしました。もともと僕は駅伝強豪校出身でもないし、変なプライドはなかったので、とにかく貪欲に吸収しようと」

「あの波のなさは本当にスゴイと思います」

 また、特に高校時代に実績を持たない選手や、故障明けの選手はどうしても周りに追いつきたいばかりにオーバートレーニングに陥りやすい。そうして調子を落とす悪循環にはまっていくことも多いものだ。一方で鈴木に話を聞いていると、彼が特筆すべきメンタル面の強さを持っていることも見えてきた。指導をする神山雄司駅伝監督は、鈴木のことをこう評する。

「良くも悪くも浮き沈みがないんです。辛いことやモチベーションが下がることもあったのでしょうが、それをもって練習ができないという様子が全然なかった。いつも朝7時には絶対にグラウンドの決まった場所にいる。大学生だし誘惑も多いけれど、そこに流されずに、ずっと淡々とやって来ていました。あの波のなさは本当にスゴイと思います」

 

 大学2年の時には大きな故障も経験し、10カ月近く走ることができなかった。それでも毎日、朝の7時になれば、グラウンドのその場所には鈴木の姿があったという。

「今年は4年生で公務員試験や帰省もあって、チーム全体の流れから外れることも多かった。でも、それを練習がこなせない言い訳には絶対にしなかったですね。そういう芯の強さはものすごい。だからこそ伸びてこられたんだと思います」(神山監督)

 焦らず、驕らず、日々粛々と練習する。

 それは簡単なようで、何より難しい。