昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

中日・小林正人広報が語る、2人のレジェンド・岩瀬仁紀と浅尾拓也の凄み

文春野球コラム オープン戦2019

2019/02/12

 岩瀬仁紀と浅尾拓也。中日ドラゴンズの黄金時代を支えた2人のレジェンドの引退から早くも4ヵ月近くが経った。それでも目を閉じれば、彼らの勇姿、そして昨年9月29日、174回目となった最後の黄金リレーの様子がすぐに思い浮かぶ人も多いだろう。

 彼らが輝かしい成績を残したことは誰でも知っている。では、いったい2人は何が凄かったのだろうか? 2人を間近で見続けてきた“左殺しのセットアッパー”こと中日ドラゴンズ広報部の小林正人さんにじっくり話をうかがった。

中日ドラゴンズ広報部の小林正人さん ©大山くまお

絶対に準備に手を抜かない岩瀬仁紀の凄さ

――さっそくですが、ブルペンで一緒に長い時間を過ごされていた小林さんから見て、現役時代の岩瀬さんの凄さはどのようなところだったでしょうか? 

小林 岩瀬さんは1日のリズムが完全に決まっているんですよ。練習中に何をするかも全部決まっていて、それを毎日毎日きっちりこなしていく。「まぁ、いいや」というところがまったくなくて、毎日本当に同じ行動をするところが凄かったです。ホームならホーム、ビジターならビジターの練習開始から試合への入り方、ブルペンで肩をつくるタイミングまでの過ごし方がほぼ決まっていました。少しでも何か不安があると戦えない場所で投げるわけですから、万全にするために心と体の準備をきっちりされていたんですね。

――やっぱりメンタルの強さを感じることが多かったですか?

小林 試合によっては打たれるときもあるんですよ。だけど、次の試合ではまた同じ場所で投げなければいけない。「メンタルが強い」というのは何も感じないということではなく、自分が大事な場所で投げることを意識して行動する。それを自分の中で積み重ねていくことなんです。岩瀬さんも浅尾もそれを毎日繰り返していたんだと思います。

 打たれたことがチームの負けにつながったり、誰かの勝ちを消してしまったりすることもありますよね。その試合で逆転ホームランを打った選手の活躍を消してしまうこともある。抑えやセットアッパーは、極端に言えば、他人の人生を背負って投げているんです。昨日打たれて今日抑えたら、昨日打たれたことが消えるかというと消えないんですよ。

――……(絶句)。

小林 投手はみんなそうなんです。取り返すことはできないけど、次に抑えることでチームに貢献するわけです。そのために準備を積み重ねていくんですね。

昨季限りで現役を引退した岩瀬仁紀 ©文藝春秋

――小林さんは現役時代、救援陣の中で同じ左腕ということで、勉強になることも多かったと思います。岩瀬さんからお聞きになった印象に残ったお話があったら教えてください。

小林 「左打者に対してはシュートをしっかり投げなければいけない」ということを教えてもらいました。岩瀬さんはスライダーのことばかり言われがちですが、実はシュートの精度がものすごく高いんです。シュートで詰まらせる、あるいはシュートで身体を起こしてスライダーで泳がせる。これが左打者に対する攻め方でした。何より岩瀬さんが実践されているところを見るのが本当に勉強になりましたね。もう一つ、「初球はボールから入っていいケースもある」ということも教えてもらいました。

――えっ、セットアッパーや抑えの投手は四球を出さないためにも、初球のボールは禁物とばかり思っていました。

小林 ボール球で空振りを取りにいくわけです。見ている人はハラハラするかもしれませんが、こちらとしては覚悟のワンボールなんです。ストライクを投げようとして外れてしまったワンボールとはまったく違います。当然ツーボールになればこちらもドキドキしますけど(笑)。

――投球術以外の教えはいかがでしょう?

小林 岩瀬さんがいつも言っていたのは「逃げたら負けだよ」ということ。かわそうと思えばかわすこともできるのかもしれませんが、「そこは腹くくって投げなきゃダメだ」といつも言われていました。マウンドに上がったら攻めるしかない。これが岩瀬さんの教えです。最初にあえてボール球を投げるのも、あくまで攻める姿勢なんですよ。

――いつも冷静そうな岩瀬さんですが、内心はメラメラと燃えていたんですね。では、小林さんがご覧になって、印象的だった岩瀬さんの登板を教えてください。

小林 どの試合ということではないのですが、すごく印象的だったのは、めちゃくちゃな乱打戦の試合の9回に登板して、簡単に3人で終わらせてしまう試合が何試合もありました。やっぱりゲームには流れがあって、7回、8回に点が入ると、9回も荒れる雰囲気がある。1対0の試合より9対8の試合のほうが9回を抑えるのは難しいと思います。でも、岩瀬さんはそこに出ていって、普通に抑えて帰ってくる。それが本当に凄い。

 もう一つ、岩瀬さんの凄いところは2試合連続で打たれないところです。それができない僕らは、2試合、3試合連続で打たれてしまうので、ファームへ行くことになる。これも攻める気持ちを持ち続けることと毎日の準備の賜物でしょうね。打たれても、次の試合で同じ準備をして、自分にスイッチを入れて、攻める気持ちで投げ続けるから抑えられる。出番が来たら、行くしかないのが抑えという役割です。岩瀬さんはそれを10年以上も続けたのですから、本当に凄いですよ。