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エッセイスト・群ようこが振り返る着物「小ドカン」、「大ドカン」時代

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紬といってもさまざま

――確かに、紬は地味な着物というイメージがあります。

群 まず木綿の労働着を思い浮かべる人が多いですからね。黒地に茶色の絣模様、みたいなイメージでしょうか。小紋の着物は奥様やお嬢様の着物で、私が好きな紬はねえやの着物、と自分でもよく言います。

 でも、実は紬も色や柄はたくさんあるんですよ。結城、大島などの高級な紬は値段もどんどん高くなっています。

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大島紬いろいろ・左は「恵大島紬織物」の紬に秋月洋子さんの書「猫」の名古屋帯、右は麻の葉模様の大島紬に菱つなぎ文帯(右)と、木綿地のろうけつの名古屋帯(左)©文藝春秋

 16歳の時に私が選んだのは、紺地に水色の花模様が飛んでいる木綿の十日町紬でした。呉服屋さんは「地味だ、地味だ」と困ってしまって、「こういうのどうですか?」と赤やピンクの小紋を勧めるんですよ。

 断ると、「せめて裏地を赤にしましょう」と言うので「野暮ったいからイヤ」とまた断ったら、「頼むから袖に少し丸みをつけさせてくれませんか」と言う。若い人の袖は、角を可愛らしく丸くするんですよね。「うーん、じゃあ、そのくらいはよし」と妥協して買った着物が、たしか5万円だったと思いますね。

 自分で貯金した分に親が少し上乗せくれて。成人式ではなく、普段用でしたが、その時はまだ自分では着られなかったから、出しては羽織ってニヤニヤしたりしていました。

今、着ている十日町伝承紬。高校時代に買ったものより手の込んだ柄ゆき ©文藝春秋

毎日へとへとになるまで着付けの練習

群 私が20歳になる時に、母が色無地を買ってくれたんです。一色に染めた絹の柔らかい着物で、ある程度改まった場所にも着て行けるように、という親心ですね。でも、私にとっては自分で買った十日町紬の方がずっと大事だった(笑)。だから、好きじゃない方で着付けの練習したんです。

 24歳で1人暮らしを始めた頃、着付けの本を買って、汗をかくからと毎日お風呂に入る前に、30分とか1時間、へとへとになるまで着付けの練習をしました。1週間経ったら、着物はちゃんと着られるようになりましたよ。そして、次の1週間で簡単な名古屋帯くらいは締められるようになった。練習に使った色無地は汗でヨレヨレになりましたが、母が引き取ってくれました。

 1ヵ月に2回着るよりも、短い期間に集中して練習した方が覚えが早いです。手が覚えるんですよね。間が空いちゃうと、あれ? ってなる。私も久しぶりに着たら途中で帯結びがわからなくなって、襦袢姿で「とりあえず茶でも飲もう」となったことがあります(笑)。

――いよいよ自由に着物を着られるようになりました。