文春オンライン

エッセイスト・群ようこが振り返る着物「小ドカン」、「大ドカン」時代

note

少ないお給料を貯めて買った大切な2枚の着物

群 当時は本の雑誌社にいましたから少ないお給料ですが(笑)、ボーナスは多めに下さったので、頑張って貯めて、最初に「絶対これが欲しい」と思った大島を買いました。スッテンテンになりましたけど、大満足で出しては眺めていました。

OLのとき貯金をはたいて買った泥大島は今でも宝物。合わせたのは、つづれ名古屋帯「耀彩段」

 次は28、9歳になった頃かな、また貯金が貯まったので、今度は黄八丈が欲しいと思ったんです。私が見て、「もう絶対にこれ」と思ったのは、山下八百子さんの作。申し訳ないことに当時は名前も存じ上げなかったのですが、八丈島で3代続いた黄八丈の作家でした。

 価格も価格なので呉服屋さんは、「うーん。最初はこういうのから慣れた方が」と、水戸黄門で町娘が着ているみたいな黄八丈を何度も勧めるんです。でも、「2枚もいらない。これだけがほしい」と必死で言ったら、やっと売って下さった。またスッテンテンになりましたが、この2枚は今でも大事に持っています。当時の私の収入からしたら、「ドカーン」という買い物でしたが、今思えば「小ドカン」ぐらい。30歳を過ぎて、独立して仕事をするようになったら「大ドカン」時代が始まったわけです(笑)。

ADVERTISEMENT

「小ドカン」時代の幕開け。山下八百子作、蔦八丈の着物に名古屋帯「インド花鳥文」

――今まで着物を着続けて、何か変わってきたことはありますか?

群 最近は年を取って、柔らかい小紋も、着た感じや裾さばきがいいなあと思うようになりました。私はコレクターではないので、着ることが前提です。お姫様気分になるとか、普段と違う私になるというような願望もあまり無いんですよね。私が着る紬は自分の好きな洋服の色とあまり変わらないので、見た人も普段の洋服姿と変わらない印象を持つんじゃないかな、と思います。私は実用主義なんです。

 正直、着るのがちょっともったいないな、と価格的に思う着物はありますね(笑)。でも、この年になって残りはカウントダウンなので、元気なうちにバンバン着なくちゃ、と思います。

通常の1.5倍の経糸を使い、まるで刺繡のような蝶が織られた「紫紘」の袋帯古裂蝶。これでまた安心な老後は遠のく。©文藝春秋 

還暦着物日記

群 ようこ

文藝春秋

2019年1月11日 発売

ネコと海鞘 (文春文庫)

群 ようこ

文藝春秋

2019年1月4日 発売

エッセイスト・群ようこが振り返る着物「小ドカン」、「大ドカン」時代

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー