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 佐藤 例えば、豊島さんには、直近で何連敗しているのか分からないですけれども、自分の意識の中ではもう50時間ぐらい一度も優勢の局面がないようなイメージがあります。そういう意味では、逆に序盤でなかなか五分の形勢すら保てないような相手が今後はもっと増えてくるのかもしれません。トップ棋士との差が少しずつ広がっているのかなという危機感は当然持っています。

 最近は、序盤戦で持ち時間を使うことのほうが多くなっています。昔も大量に使っていたんですけれども、ちょっと意味合いが違う。変な言い方ですけど、昔は先を走るために使っていたのに対して、今は追い付くために使っているようなところがありますので。その点はちょっと課題ですね。

 それでも、後悔はしていません。今はどんなトップ棋士でも「角換わり腰掛け銀」という戦術を指しますけれども、いくら時代の潮流でも私はなかなか選択できない。結局、将棋盤自体も、将棋のルールも変わることはありません。自分は修業時代にいろんな先輩棋士を見てきましたが、やはり年を取ればそれなりに独特のスタイルを貫く棋士のほうが多かったので、自分なりの戦い方をするのがいいのかなと。若手じゃないと先を走れないとは思っていませんから。

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竜王戦終局後、羽生さんは「九段で」と即答

―― 羽生さんは竜王戦で第七局まで戦い抜きましたが、最終局で敗れて27年ぶりの無冠という結果になりました。

 佐藤 最終局は私も現地に行ってきました。押し引きを繰り返すような展開の対局で、羽生さんのほうにわずかな狂いがあって、その一点を広瀬(章人)さんがすかさず突いた。竜王位を奪取するほど充実していた今期の広瀬さんの集大成の一局だったと言えるのかもしれません。羽生さんは、ちょっと作戦が失敗して負けるケースはあっても、あまり記憶にない種類の負け方でした。やっぱり羽生さんも悔しかったんでしょうね。珍しく最後の最後まで指されたので。

 竜王戦はシリーズを通じて終盤まで勝負の行方が分からない僅差の将棋が多かったです。本当にギリギリの戦いを二人が繰り広げていた。羽生さんじゃないと勝てない、広瀬さんじゃないと勝てないという内容で、最高峰のタイトル戦にふさわしい、名局の多い七番勝負でした。

 

―― 終局後に、羽生さんと面会して、「称号」をどうするのか確認されたそうですね。

佐藤 やはり羽生さんは前人未到の特別な棋士ですから、称号については連盟内部でもいろいろな案がありました。最終的には、最終局の2週間ぐらい前の役員会で私に一任されましたので、私が意向を聞くことになりました。ただ、羽生さん自身は、もう決めておられたのでしょうね。すぐに「九段で」と。そのお役目のために1泊2日で行ったものの、話自体は30秒で終わりました(笑)。