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日本将棋連盟・佐藤康光会長インタビュー「AI全盛時代でも貫きたい、私のスタイル」

日本将棋連盟・佐藤康光会長インタビュー「AI全盛時代でも貫きたい、私のスタイル」

「今後もタイトルを獲りたいと狙っていますよ」

note

私は完全に旧世代の人間です

 

―― AI研究を取り入れた流行戦術、新しい序盤戦のかたちなどについては勉強されているのでしょうか。

 佐藤 現状はほぼありません。その時間があれば普通に勉強したいですね。ただ、同世代だとやっぱり羽生(善治)さん、それから郷田(真隆)さん、丸山(忠久)さんなど、最先端の将棋で勝負する人が多い。羽生さんにしても、私みたいに経験を押し出すというよりも、若手と真正面からぶつかって、堂々と戦っているイメージがあります。普通に考えたら、若手のほうが研究時間は圧倒的に多いわけですから、羽生さんの姿勢はすごいなと同世代としては思いますね。

 AIとの付き合い方は人それぞれです。例えば、千田(翔太)さんや豊島(将之)さんのように、全面的にAIを研究の中心に据えている棋士もいます。一方で、自分を高めるための一つの手段としてとらえている棋士もいます。いずれにしても、AIとともに自分も向上するというスタイルが確立されていますから、私は完全に旧世代の人間ということになります。たまに若手と将棋の話をすると、「本当に日本語を話しているのかな?」と思ってしまうほどです。

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 AIの誕生によって変わった点として、コンピューターの判断を全面的に信じてしまえば、その局面は有利なのか不利なのか、一瞬で答えが出せてしまうのです。マイナスになる局面は切り捨てて、選択肢から外してしまえばいい。究極の合理化です。ただ、「それでいいのか」という疑問を私は持っています。昔はプラスかマイナスか分からないまま自分なりに暗中模索して、分からないまま研究を続けていました。時代に逆行するようですが、自分としては今後もその過程は大事にしていきたいと考えています。

 

―― 羽生さんの将棋も、大きく変わったのでしょうか。

 佐藤 最近カルチャーショックを受けたのが、昨年10月に竜王戦第一局を観戦したときのことです。タイトル戦の現場では、記者の方から「コンピューターは次にこういう手を予想していますよ」と言われることがあります。私は羽生さんとは160局以上対局していますから、指し手のイメージに関しては自信があったんです。ところが、中盤で「さすがにこれは指さないだろう」というコンピューターの推奨手をことごとく羽生さんが選んでいて、とても驚きましたね。自分にはちょっと考えもつかないような手でしたので……。

 極論すると、私はこの2年間ずっと変わっていません。ところが、羽生さんはガラッと変わった。変化したという事実は、同業者として一番肌で感じるので、自分が化石になったというか、時代に取り残されているような感覚は受けました。

 私は若手棋士にはここ数年、相当苦戦していますね。自分で言うのもなんですけれど、私は序盤巧者というか、序盤でリードを奪って先行逃げ切りするタイプです。もちろん、逆転負けすることはこれまでも多々ありましたけれど、最近は一度も先行できないまま完敗してしまう対局が残念ながら増えてきました。自分でもあまり経験がなかった事態です。