将棋界には、かつて伝説の研究会が存在した。若き日の羽生善治、佐藤康光、森内俊之が研鑽を積んだ、いわば「羽生世代」の原点とも言える場所。それが通称「島研」である。主宰者は島朗(しま・あきら)九段。初代竜王、タイトル戦登場6回、順位戦A級通算9期という輝かしい経歴のトップ棋士であると同時に、のちに旋風を巻き起こした羽生世代の才能をいち早く見抜いた慧眼の持ち主でもある。

 その島九段の眼には、「戦国時代」と呼ばれる現在の将棋界はどう映っているのか。

 

ここまで長期にわたり君臨し続けるとは

―― 現在、ちょうど第31期竜王戦の番勝負が行われています。羽生善治さんが初タイトルを取られたのは、島さんとの第2期竜王戦でしたが、これが平成元年(1989年)のこと。平成が終わろうとしているこのタイミングでも羽生さんが竜王位保持者で、かつタイトル100期目に向けた勝負の真っ最中です。

 ストーリーとしても完璧ですね(笑)。羽生さんが将棋界のトップに立つことは早くから分かっていましたが、平成30年に100期目をかけての戦いをするという、ここまで長期にわたり君臨し続けて、永世七冠に象徴される数多くの大記録を次々と打ち立てていくとは……。本当に畏敬の念を持たずにはいられないです。

―― 先日の竜王戦第1戦は渋谷のセルリアンタワー能楽堂で行われ、島さんも現地にいらっしゃいましたね。

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 昨年に引き続き、渋谷の対局の立会人を務めました。前期も永世七冠がかかった大勝負でしたけれども、シリーズ第1局から羽生さんが非常にいい内容で勝たれてペースをつかみ、偉業を達成されました。今年も大きな節目となり注目が集まっています。挑戦者の広瀬章人さんもとても充実していて、実際緒戦から接戦が続いています。

1996年、七冠独占をかけて谷川浩司王将と対局する羽生善治六冠(いずれも当時) ©共同通信社

 思えば羽生さんが20代で七冠した独占の時も圧倒的な凄みを感じましたけれども、時を経て次から次へと現れる後輩たちにまったく譲らない別の底力、奥深さを感じた対局でもありました。

 最終盤に5九桂と打った印象的な手があって、互いに死力を尽くした2日制タイトル戦の夕方、持ち時間を使いきり(毎回1分以内に指す)1分将棋になっても崩れないというのは、何度もこういう場面を見てきたとはいえ、その度に新鮮な感動ですし、この年代では驚異的です。底知れぬ鍛え方と技術の集積で、佐藤康光会長と二人で「久しぶりにすごいものを見たね」と話しながら帰りました。そう言われる会長も素晴らしい対局をよく見せてくれますけどね(笑)。