藤井聡太王将に永瀬拓矢九段が挑戦する、第75期ALSOK杯王将戦七番勝負(主催:日本将棋連盟、特別協賛:ALSOK、特別協力:毎日新聞社・スポーツニッポン新聞社)の第3局が、2月3日、4日に東京都立川市「オーベルジュ ときと」で行われた。
1日目、藤井が守りの金を攻めに使う意表の「棒金作戦」を見せたのに対して、永瀬は考慮時間を小刻みに使いながら反撃に出る。昼食休憩明け、終盤戦に突入しても永瀬の早指しは止まらず、底知れぬ研究範囲の深さを窺わせた。そして勝負は2日目へと突入する——。(全2回の2回目/最初から読む)
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藤井は苦しそうな表情に。モニター越しにため息が…
2日目。永瀬の封じ手は、一番人気だった「馬取りに飛車を回る手」だった。受ける手も有力だったが、永瀬のここまでの戦いぶりからして前進する手を選ぶだろうという島の予想は当たった。
午前10時頃、私は1日目と同じく現地へ。今日は山口裕誠三段と須田優輝初段が検討に加わった。立会人の島朗九段は「今日の助っ人も頼りになりますよ」と語る。須田初段は島門下で仙台在住。奨励会のために東京入りしたときに、しばらく滞在して研究会などをこなしているそうだ。
島はAIの評価値や候補手も時折指摘するが、奨励会員の検討を邪魔しないよう最大限の配慮を払って見守っている。この難解な終盤は、実に考えがいがある。
藤井は苦しそうな表情だ。モニター越しにもため息が聞こえ、扇子を回し、膝を叩く。苛立っているようにも見えた。藤井は、馬を逃げていては勝負にならないと敵陣に突っ込む。
敵の駒が頭上に迫る永瀬玉、初期配置から一歩も動いていない藤井玉。どちらも危険な状態で、島は「一手一手が重いですね」と繰り返す。やがて控室には、大盤解説を務める高橋佑二郎四段と宮宗紫野女流二段も合流した。
79分の長考、決断の一手
永瀬がここで大長考に沈む。79分の考慮の末、藤井の飛車の前に歩を叩いて位置をずらし、金で馬を取ってから金銀取りに歩を成り込んだ。角を入手したものの、金を渡した上に、自陣には飛車取りのと金を作られている。もう後戻りのできない順だ。最短距離で仕留めようとする、決断の一手である。
藤井が長考しているうちに昼食休憩に入った。金を取られると負けてしまう藤井は、休憩を挟み53分の長考で金を逃げる。すると永瀬もお返しの68分を投じ、端から角を打った。
これが永瀬の切り札だった。居玉をとがめる王手であるだけでなく、永瀬玉に迫る8六の金にも当たっているのが大きい。
昨日の検討では、私も島も「攻め合いなら後手(藤井)持ち」と考えていた。だが三段の2人に「この角打ちがある」と指摘され、驚かされたものだ。
島は「普通、棒銀なら8六にいるのは銀だから、こんな王手は成立しない(9五に銀の利きがある)。いやはや」とため息をつく。
「我々2人しかいなかったら、どうにもなりませんでしたね」と島が言い、私も同意した。




