「飛車を打たれて詰みです」周囲を驚愕させた藤井の一言
控室に戻ってからの感想戦は、時折無言が続く緊迫した時間となった。しかし表情は豊かだ。笑い、驚き、真剣な目つきになる。最小限の言葉で意志が通じ合い、パズルのピースがはまっていくのがわかる。「あの角がきつかった」という一言が重い。
やがて、あの場面になった。なぜ先手陣への桂打ちを見送ったのか。すなわち、72手目に△5七桂と打ち、▲8四桂なら△同飛▲同角に△6九桂成と勝負する順はどうだったのか。
すると、藤井から驚きの言葉が出た。
「飛車を打たれて詰みです」
えっ、▲7三飛と打つのか。それで詰むのか。島も驚愕している。
永瀬も△5七桂の順は考えていたが、その場合には金を逃げる予定だったようで「詰みなんですか……」と驚きの表情を浮かべた。だが、2人ともその後の手順を盤上に並べようとはしない。藤井が「詰み」と言えば、それが結論なのだ。
2人は同時にシンクロしたかのように天を仰いだ。置いてきぼりにされた私たちが、その深淵を覗き見ることはできなかった。
2人が作り出す「作品」のレベル
感想戦が終わり、最後に島に感想を求めると、「永瀬さんの努力の勝利です」との答えが返ってきた。まさにその通りだ。ここまで研究するのに、一体どれほどの時間を費やしたのだろう。
序盤早々に新手で前例を外れており、AIだけでは到底調べ尽くせないはず。数多くのぶつかり稽古とフィードバックがあってこその勝利だ。その努力が、対藤井のタイトル戦で初めて、3局終了時点での勝ち越しをもたらした。
関係者に挨拶して控室に戻ると、記録係の吉田響太三段と、山口、須田の両名が、まだあの局面を前に夢中で詰みを考えていた。若い情熱は、いくらでも考え続けられるのだろう。私は1日目から終盤戦を検討し続けた疲労を抱え、それを「宿題」として立川を後にした。
後日、長い時間をかけてようやく詰み手順を発見した。合駒の選択肢がいくつもあり、変化が多すぎて読み切るのは至難の業だ。藤井なら読み切って当然と思うかもしれないが、2日間の激闘による疲労の中、逆側(詰まされる側)の視点からこの手順を読み切るのは並大抵のことではない。
他の変化手順もことごとく高難易度で、改めて2人が作り出す「作品」のレベルの高さを思い知らされた。
私は第1局の際、「今回のタイトル戦は荒れる。タフになる。そんな予感、いや実感を伴った空気だ」と書いた。その言葉通りの、壮絶な七番勝負になりつつある。
撮影=勝又清和
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