1月11日午前8時57分、対局室は異様な緊迫感にあふれていた。

 対局直前は背筋を伸ばして待っているのが普通だ。瞑想している棋士も多い。だが、上座のタイトルホルダーが前傾姿勢で扇子を強く握りしめ、まだ1手も動いていない盤面をにらめば、挑戦者もやや前のめりになり、同じく盤面を凝視している。

藤井聡太王将(右)に永瀬拓也九段が挑んだ ©︎勝又清和

 数多くの対局を見てきたが、こんな光景は初めてだ。今回のタイトル戦は荒れる。タフになる。そんな予感、いや実感を伴った空気だった。(全2回の1回目/つづきを読む

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対局前日、挑戦者はリラックスしていたが…

 将棋界の新年は王将戦で始まる。

 藤井聡太王将に永瀬拓矢九段が挑戦する第75期ALSOK杯王将戦七番勝負(主催:日本将棋連盟、特別協賛:ALSOK、特別協力:毎日新聞社・スポーツニッポン新聞社)の第1局が、1月11日・12日に静岡県掛川市「掛川城 二の丸茶室」で行われた。掛川市の王将戦誘致は17年連続。それにあわせて開催されている「掛川こども王将戦」は今回で13回目を数える。

対局会場となった掛川城

 私は今回、現地の大盤解説を務めることになった。対局前日の10日、早めの新幹線に乗り、13時ごろに「こども王将戦」会場の掛川市役所に赴く。小学生から中学生まで、棋力別に3クラスに分かれてのリーグ戦だが、みな一所懸命に指している。

 ふと見ると、低学年の子が負けて大泣きしていた。ああ、あの時と同じだな、と思う。10年以上前に、伊藤匠二冠に負けて泣いていたあの子は、明日、大舞台の上座にタイトルホルダーとして着く。一番上のSクラスは非常にレベルが高く、掛川市長の久保田崇さんと共に見入ってしまった。

 14時45分過ぎ、両対局者が視察に訪れた。永瀬は子どもたちへの視線が常に温かい。藤井はいつも通りだったが、Sクラスで角換わり腰掛け銀を指していた対局をちらりと見ていた。

こども大会の視察に訪れた藤井

 検分も前夜祭もつつがなく終わった。永瀬はリラックスしており、おやつの話題になると言葉が弾んだが、藤井はややピリピリとした様子だった。

 いよいよ当日。

 第1局のため振り駒が行われた。ここから第7局まで先後は交代して進むことになる。振り駒は今井環・囲碁将棋チャンネル取締役会長が行い、「と金」が3枚出て永瀬の先手に決まった。