藤井が繰り出した“羽生流”の終盤術

 2日目、ルーティンなのか、両者の入室時間は1日目とまったく同じ(永瀬8時40分、藤井8時48分)だった。

2日目の両対局者

 永瀬が封じ手で金をさらに前進させたのに対し、藤井は勝負術をみせた。拠点の歩を成り捨てたあと、さらに歩を打ち捨てて玉をつり上げ、再び8筋に拠点を作る。歩を2枚犠牲にして敵玉を危険地帯に引きずり出したのだ。

 かと思えば、今度は自玉を右へとスライドさせて、攻めを緩和させる。相手の玉を飛車の射程に入れ、自玉を安全圏へ逃がす——。

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 これは! 羽生善治九段の得意技ではないか。

 真っ先に思い出すのは1988年の羽生善治ー森内俊之の新人王戦決勝三番勝負第1局だ。羽生は森内の矢倉の陣形を乱してからさっと手を戻して快勝。森内は自著で「時代を超えたセンス」と絶賛した。

 羽生将棋では、他にいくつも似た場面が浮かぶ。藤井の終盤力に、羽生流の終盤術が合体したのだ。これはヤバイ。

 永瀬は大長考の末、玉を三段目に上げる最強の顔面受けで返した。午後3時30分、ここからは、まさに真剣の斬り合い。やがて、藤井が今回の王将戦記念扇子に揮毫した「馬」が盤上にできる。流れは逆転したかにみえた。

絶対王者に生まれた“一瞬のスキ”

 永瀬が藤井の攻めをせき止めようと、自玉に迫る飛車にアタックして後手陣まで後退させる。追い詰められた飛車を逃がすのだろうなと見ていると、藤井は盤上の飛車はそのままに、駒台の飛車を敵陣深くに打ち込んだ。

 ええっ? このタイミングで。なるほど、受けに持ち駒の銀を使わせる狙いか? だが、永瀬は藤井の一瞬のスキを逃さなかった。銀を打たずに盤上の金を寄ったあと、その隣に重ねて金を打つ!

 飛車馬両取り。これほど素朴で強力な手があったとは。藤井の馬を抜き去り、再び永瀬が抜け出す。最後は桂を捨てて逃げ道を確保してから必至をかけるという、冷静かつクレバーな順で仕留めた。

難解な終盤戦を永瀬が制した

 137手で永瀬勝ち。終局時刻は午後7時36分と過去の藤井の王将戦七番勝負で一番長かった。

 大盤解説を終えて、対局室に入ると、2人の笑い声が聞こえてきた。なんだかホッとした。

 
感想戦は和やかだった

 永瀬の編み出した絶妙な攻めの手順に、藤井は1日目の午後から苦しんだ。終盤も挑戦者の指し回しが正確だった。1日目の対局前の緊張感も思うと、藤井の永瀬への警戒ぶりは、いつもと違う。まさにタフなシリーズになることを確信させるものだった。

写真=勝又清和

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