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『ブラック・クランズマン』は『シン・ゴジラ』的映画だ

『グリーンブック』が“有効”な映画である理由

2019/03/31
note

「人種差別問題に対する処方箋」とは?

「そこまでやっちゃっている『ブラック・クランズマン』と比較すると、『グリーンブック』は、差別に対する見方があまりにもナイーブなんじゃないですか? 実際に『白人目線の作品だ』という批判も出ていますし」

「そこでオレの『グリーンブック=ハリウッド版ゴジラ、ブラック・クランズマン=シン・ゴジラ』論が生きてくるわけ。以前のコラムでもくわしく論じたけれど、『シン・ゴジラ』は、原点である1作目の『ゴジラ』の精神に立ち戻り、東日本大震災による原発事故で日本人が受けたトラウマに正面から向き合うという超硬派な作品やった。当事者である日本人観客の心には深く刺さったけど海外興行では惨敗。国際的にみれば、入り口の狭い作品になってしまった。

 一方のハリウッド版は、端っから『人類にとっての脅威としてのゴジラ』など描く気はなく、『人類の守護者であるゴジラが悪の怪獣をやっつける』という完全エンタメ路線で勝負して大ヒットしている。正直、オレ自身はあんまり楽しめなかったけど、怪獣映画の魅力を世界中の人々に伝えるという功績は大きかったと思うで。実際、ハリウッド版のヒットがあったからこそ、長期間塩漬けになっていた日本版ゴジラ映画も再起動し、『シン・ゴジラ』につながったわけやからな」

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「『グリーンブック』には、『ブラック・クランズマン』ほどの深みや先鋭さはないけれど、人種差別問題についてより広く訴えるためのツールとしては有効、ということですか」

「実際、二つの作品が最終的に示す『人種差別問題に対する処方箋』はまったく同じなんや。『ブラック・クランズマン』でも、黒人と白人が協力して行った潜入捜査によって両者の絆が深まり、協力して警察署内の人種差別主義者をとっちめることにつながっていく。人種差別の問題はあまりにも根深く、抜本的な解決はまず不可能やろう。だからこそ、まずは一人ひとりが日常的な人間関係を通じて、自らの内なる偏見を徐々に乗り越えていくしかない。長期的なゲリラ戦、持久戦以外の選択肢はないんや。

 そのためには、使えるものは何だってうまく活用せんとあかん。『グリーンブックは人種差別の本当の深刻さを理解していない』という批判そのものが、差別の芽でもある偏狭さを含んでいると思うで。スパイク・リー監督もあれだけ好き放題やっているんやから、権威主義的なアカデミー賞への未練はすっぱり断ち切って、これからも反骨精神の塊で突っ走って欲しいな」

INFORMATION

「ブラック・クランズマン」
大ヒット公開中!
監督・脚本:スパイク・リー
製作:スパイク・リー、ジェイソン・ブラム、ジョーダン・ピール
出演:ジョン・デヴィッド・ワシントン、アダム・ドライバー、ローラ・ハリアー、トファー・グレイス、アレック・ボールドウィンほか
配給:パルコ
宣伝:スキップ&NPC
2018年/アメリカ/カラー/デジタル/英語/原題:BlacKkKlansman/映倫:G指定
https://bkm-movie.jp/

『ブラック・クランズマン』は『シン・ゴジラ』的映画だ

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