恋ちゃん(大手マスコミの元気な映画好き若手社員)「小石さん、『ブラック・クランズマン』すごかったですねえ!」
小石輝(恋ちゃんによくいじられるオタクおじさん)「お、君もさっそく見てきたんか」
恋「ええ。監督・脚本・製作の3役をこなしたスパイク・リーが、アカデミー賞の授賞式で脚色賞を受賞した時には、サミュエル・L・ジャクソンと抱き合って喜んでいたのに、『グリーンブック』が作品賞を受賞した時には、怒って席を立とうとしたでしょう。私も『グリーンブック』を観た時には『普通におもしろいけど、アカデミー賞取るほどの作品かなあ』と感じたので、スパイク・リーが何であんなに怒ったのか知りたくなったんですよ」
小「で、君なりに理由は分かったんか」
恋「いやー。私がリー監督でもやっぱり怒り狂ったでしょうねえ。リー監督は人種差別を長年テーマとし、考え抜き、差別の歴史性や人間のパーソナリティーの核心にまで食い込む根深さを表現したのに、『黒人も白人も同じ人間。腹を割って付き合えばきっと友達になれるよ』というノリの作品に出し抜かれちゃったわけですから」
小「確かになあ。作品の深み、広がりという点からみれば『ブラック・クランズマン』の方が圧倒的に上なのは疑いない。物語としても、『グリーンブック』の方が予定調和的であるのに対して、『ブラック・クランズマン』はサスペンスとしての緊張度が高いし、クライマックスの展開も意表をついている。高い物語性が作品のテーマと表裏一体なのも、すごいところや」
恋「でしょう! アカデミー賞の見識を疑っちゃいますよ」
小「『ブラック・クランズマン』は差別する側を糾弾するだけではなく、差別される側も容赦なく批判する劇薬のような映画やからな。賞を与えるには、安心して観られる『グリーンブック』の方が無難やった、というところもあるやろう。そやけどオレの考えでは、この二つの作品をライバル扱いして『どっちが上か』と論争すること自体が不毛やし、スパイク・リー自身も含めて、一種の『罠』にはまり込んでいると思う。むしろ両作品は、お互いがお互いの弱点を補い合う凸凹コンビみたいな関係にあるんやないかな」
恋「それってどういうことですか?」
小「うーん。あえて例えれば、『グリーンブック』が2014年ハリウッド版『GODZILLA』とすれば、『ブラック・クランズマン』は庵野秀明監督の2016年『シン・ゴジラ』ってところかな」
恋「あきれた! 人種差別を扱った映画を怪獣映画になぞらえちゃうんですか」