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『ブラック・クランズマン』は『シン・ゴジラ』的映画だ

『グリーンブック』が“有効”な映画である理由

2019/03/31
note

「実話ベース」以外にも見つかる共通点

「普通に考えれば『声の違いで一発でばれちゃうだろう』と思うんですけどねえ」

「純粋なフィクションではありえん設定やけど、これは実話がベースやからな。現実にそれでKKKの連中を欺き通せたんやから、観ている側も文句は言えんわ」

「『グリーンブック』も実話がベースになっているんですね」

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「そうそう。黒人と白人がコンビを組んでことに当たる、という点でも両者は一緒。ついでに言うと、『グリーンブック』の白人用心棒トニーを演じるのは、かつて『ロード・オブ・ザ・リング』で英雄アラゴルンを演じたヴィゴ・モーテンセン。『ブラック・クランズマン』の白人刑事フリップは、スター・ウォーズ新三部作で敵役のカイロ・レンに扮するアダム・ドライバー。どちらも、ファンタジー映画の金看板作品で準主役級を演じた点でも共通するんやでえ」

「やれやれ。どうしてもオタク文脈から離れられないんですねえ。それにしても、『ブラック・クランズマン』に登場するKKKの末端メンバーたちは生々しいですね。エキセントリックな所はあるけど、私たちとまったく異質な存在でもない。人生から落伍しかかっている人々が『黒人を差別することで、不安定な自我を何とか支えている』という雰囲気がリアルに伝わってきましたよ」

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「KKKのメンバーであるフェリックスの妻・コニーは、夫の人種差別主義にすっかり染まってしまい、ベッドの中で『ありがとう。私をあなたの人生に連れてきてくれて。私に生きる目的と方向を与えてくれて』とささやく。黒人やユダヤ人を見下すことで、何も取り柄がない自分を特別な存在と信じることができ、彼らを敵視し排除することに、自らの生きる意味を見いだす。英国の批評家サミュエル・ジョンソンが『愛国主義はならず者の最後の避難場所』と喝破したのと同じ構図やな。自らのルーツや祖国にアイデンティティーを見いだすのは自然なことやけど、それが異質な他者の排除と結びつくと、最もおぞましい存在に堕ちてしまう。

 一方で、黒人解放運動に取り組む人々を英雄視することもなく、その偏狭さも描いている。その一例が、学生運動家で主人公のガールフレンドのパトリスや。白人警官にセクハラされた彼女は、すべての警官を人種差別主義者・権力の手先と見なし『ピッグ(豚野郎)』と呼び続ける。自分も警官であることを隠している主人公が『警官みんなが人種差別主義者だと思うのか』とたしなめても、『1人でもいれば十分よ!』と取り合おうとしない」