スパイク・リーは米国映画をも糾弾している
恋「結局、最後まで彼女の警官に対する偏見は改まらないですからね。だけど、私が心底怖かったのはやっぱり、KKKの加入式典後に、メンバーやその家族が和気あいあいと映画鑑賞するシーンですね。黒人を徹底的に馬鹿にし、悪役扱いし、ついには虐殺してしまう古い無声映画を、まるでハリウッドの最新娯楽大作でも観るかのように、ポップコーンを食べながら歓声を上げて観ている。人間の精神ってここまで醜く歪んでしまうのかと、ぞっとしましたよ」
小「KKKの連中が大喜びで観ていたのは、映画史上の一大傑作とされる1915年の米国メガヒット映画『國民の創生』や。この映画は、KKKによる黒人排除を英雄的に描き、一時は自然消滅していたKKKが再興する要因の一つになったと言われている。『ブラック・クランズマン』の冒頭では映画『風と共に去りぬ』のワンシーンも引用されているけど、この作品も奴隷制を含めた旧南部の『古き良き文化』を称えているとの批判がある。つまり、スパイク・リーは『ブラック・クランズマン』で、米国の映画が黒人差別に積極的に加担してきたことをも糾弾しているんや。この映画がアカデミー作品賞を逃した真の理由は、実はこのあたりにあるのかもしれんな。何せ、『風と共に去りぬ』は、1940年のアカデミー賞で、作品賞を含む9部門を受賞しているんやから」
恋「マイノリティの問題を扱って昨年、作品賞を受賞した『シェイプ・オブ・ウォーター』はフレッド・アステアのミュージカル映画など、ハリウッドの伝統に最大限の敬意を払う内容でしたからね」
小「『ブラック・クランズマン』では、潜入捜査中の白人刑事のKKK入団式と、黒人学生の集会シーンが同時並行で描かれる。差別する側、される側が自分たちの『物語』を世代を越えて継承し、お互いへの憎悪を募らせていくことが象徴的に表現されるんやけど、このシーンで用いられている『クロスカッティング』と呼ばれる演出手法は、実は『國民の創生』で確立されたと言われているんや。スパイク・リーは、自らの『映画を撮る』という行為自体も人種差別の歴史的影響から逃れられない、ということまで自覚的なんや。差別する側、される側に加えて、両者を俯瞰する自分自身をも、批判の刃でぶった切る。恐るべき反骨精神、というより他ないわ」