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「日本の子どもは孤立している」児童養護施設出身者の“クモの糸”を増やすには

社会的養護の「その後」#2

note

「『相談できる場所が増えましたよ』って言っても、結局、人って関係性ができていない場所にはなかなか相談しにいかないんですよ。

 器用な子は、トラブルがあっても『あの人に連絡してみよう』『この人に聞いてみよう』と、頼る先がいっぱいある。『仲が良い職員さんは、この人だけ』というわけではなく、いろいろな人と飲みに行っていたりね。いわば、クモの糸を何本も持っているんです。

 

 一方で、人間関係につまずきがある子は、些細なことも周囲に相談できない。細い糸が1本しかない、という状態だと、それがダメだったらどん詰まりですよね」

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 制度や人員配置といった“ハード面”を改善しても、退所者がいざというときに助けを求められるか否かには、人間関係などといった“ソフト面”が関わってくる。

「児童養護施設は、福祉施設でもあるけど、『子育て』の現場でもある。できるだけみんなが同じ支援を受けられるようにしなければとは思いますが、属人的でない子育てなんて、不可能なのではないでしょうか」

子どもたちの『糸』を増やす

 どうしても属人的になる児童養護施設の現場で、“ソフト面”を改善するにはどうすればいいのか。

「とても退所者支援に手が回らない、という施設もたくさんあるので、まずは現場に余裕が生まれなければと思うんです」

 そう林さんは前置きしつつも、「子どもたちの『糸』を増やすことはできる」と話す。

 ブリッジフォースマイルでは、退所を控えた子どもたちにひとり暮らしに必要な知識やソーシャルスキルを教えるセミナーや、社会人ボランティアと継続的な交流を持つ機会などを設けている。また、横浜市の事業を受託し、施設出身者が気軽に立ち寄れる「よこはま Port For」などを運営している。

 特定の児童養護施設と密に連携し、子どもたちの「糸」を増やしている団体もある。1992年にNPO法人KIDS内のプロジェクトとして始動し、2004年に東京都北区の児童養護施設「星美ホーム」に関わっていた社会人ボランティアたちが独立して立ち上げた「星の子キッズ・ボランティアグループ」だ。

「星の子キッズ・ボランティアグループ」が一緒に活動している「星美ホーム」の内観

10年以上在籍する古株ボランティアが10人前後

星の子キッズ・ボランティアグループ」では「星美ホーム」の子どもたちを対象に、社会人・学生ボランティアが月に1度、施設内外で子どもたちにプログラムを提供する「定期訪問」や、週3回の学習のサポートを行っている。登録しているボランティアは約60人で、「定期訪問」には毎回約20人のボランティアが参加する。そのうちの10人前後は、10年以上活動を継続している古株ボランティアだ。

 当初、そうした活動に対して懐疑的だったと「星美ホーム」の副施設長・立入聡さんは語る。